登場人物紹介







 日の当たらぬ、カビの臭いがする暗い路地裏で、場違いにきらびやかな格好をした少女が人相の悪い二人組みの男達に取り囲まれている。
 このような状況を普通に見た場合、少女はかなりの危機に瀕している、と察することができるであろう。少女が反抗的な目つきで二人組みを睨んでおり、二人組みの方は反対に明らかにうさんくさい笑顔を浮かべていることも、その推測の裏づけとなる。
 さて今現在、その状況が目の前で起こっているわけだが。

「……ふむ」

 散策の帰りになんとなく入り込んだロムロ坂の路地裏で、たまたま目にした緊急事態。
 普段の俺様なら、見に行って口を出して手も出して必要なら金を出して倍にして巻き上げて、最後に証拠隠滅するところなのだが――

「やめとくか」

 トラブルの中心に位置する少女の顔を見た瞬間、それらはすべて諦めた。
 あれに関わることは、今しばらく控えておきたい。
 ということで、俺はそれを見なかったことにし、自室に帰ることにした。

「……! そ、そこー! 待ちなさいっての!」

 だというのに少女は目ざとく俺を見つけたようだ。非難の声を遠くから浴びせてきた。トラブルの方から俺に迫ってきやがる、全く持ってけしからん。問題というのは追えば逃げ、逃げれば追ってくるものらしい。
 仕方なく振り返って嫌々現場に近付いていくと、そこにいたのは予想通り、この国で形式上一番えらいとされている男の娘であるところの、つまりはプリシラ・ドルファンその人であった。いつか見た派手な色合いの外出着を着ているが、それは薄暗い路地裏の雰囲気に全くマッチしておらず、いかにもチンピラに絡まれそうな格好だった。
 プリシラが俺を睨んで言った。

「乙女のピンチを見過ごす気!?」
「なんだ。仲間と遊んでたんじゃないのか」
「この状況のどこをどう見たら遊んでるように見えるのよ。だいたいこんなチンピラがこの! わたしの! 仲間なわけないでしょ」
「いちいち強調するな、うるさい」

 そう言ってから、視線をプリシラから二人組みの方へと移す。
 俺とプリシラのやりとりを怪訝な様子で伺っている二人組みの男達は、粗末な皮の服にこれまた安っぽい剣を腰に差した、確かにこれ以上ないくらいのチンピラだった。
 しかしその身のこなしにはなかなか侮れないものがある。足取りは力強く、俺様が発している超人的威厳にもあまり怯む様子を見せていない。実戦経験を積んでいるようだ。同業者だろうか。

「ふむ、確かにチンピラだが……結構似合ってるな」
「どこがよ」
「悪巧みする王女とその手先」
「ぶん殴るわよ」

 なんでだ。だいたいお忍びなんて日陰者の分際でそんなでかい態度をとるから、こんなつまらんトラブルに巻き込まれるのだ。そんなこともわからんとは、やはりこいつは果てしないバカだ。

「なんか言った?」
「言ってない」
「そう? あなたと話してると、なんか心の声が聞こえてくるのよね……何故か、もんのすごく失礼なことばかり。気のせいかしら?」
「故郷の腕の良い医者を紹介してやろうか。なんでも頭の中身も診てもらえるんだとか」
「……半殺しにしていい?」
「百倍返しで死なない自信があれば」
「あはは、大丈夫。ちゃんと止めは刺してあげる」

 それは普通半殺しとは言わない。
 売り言葉に買い言葉が続く。こっちは半分冗談だが、むこうも恐らく同じだろう。
 ――それはつまり、半分は本気ということで、まかり間違えば本当に止めを刺したり刺したり(刺される? 有り得ない)することになる訳だが、それはそれで面白いので特に問題はない。

「あ、あのー?」
「なんだ?」

 が、幸か不幸か、行き着くところに至る前に二人組みのうちの片方、でっぷりと太った不細工な男が、俺とプリシラの会話に割り込んできた。命拾いしたなあ。
 太っちょの男はしかし声をかけてきたにも関わらず、俺の超美形な顔を一見すると、しゃっくりが出そうなほど大きく息を飲みすぐに俺から視線をそらした。

「なあ。こいつ、ひょっとしたら……」
「……ああ。オレもさっき思い出した。確かこいつ、あの、第一中隊の……」
「なんだ貴様ら。なにか用か。こっちは用はないが」

 俺を見てなにやらひそひそ声で話し出した男達の会話を遮るようにして、声をかける。
 すると二人は愛想笑いを浮かべ、すり足で後ずさりはじめた。

「いえいえなんでもありませんよ。それじゃ俺たちは退散しますんで、続きをどうぞ」
「待ちなさいッ!」

 媚びた言動を発してからくるりと背を向け、そそくさとこの場から逃げ出していこうとする男達を、プリシラがそれなりに威厳のある一声で引き止めた。
 二人組みの動きが止まり、首だけがのろのろとこちらに振り向く。
 プリシラはそれに合わせて俺に非難がましい視線を向けてきた。二人組みを指差しながら、甲高い抗議の声を上げる。

「なに騙されかけてるのよ。あなたも見てたでしょ、こいつら私から財布脅し取ろうとした、正真正銘の凶悪強盗恐喝犯なんだから! さっさと捕まえなさい」
「そうか、わかった。では見逃してやろう」
「ちっ、そこまでばれちゃぁ仕方ね…………へ?」
「そうよ大人しく…………は?」

 俺の即断を聞いてあっけに取られたのか、目を丸くするプリシラと、そして二人組み。特に二人組みの方は、打ち合わせでもしていたかのように揃って俺を見つめている。

「どうした。逃げないのか」
「……あ……おい! 行くぞっ」

 向かって右側、痩せ型で背の高い奴が先に立ち直ったようだ。太っちょの方の腹を肘で小突く。

「……お、おう」

 二人の男は顔を向かい合わせて頷き合うと、くるりと俺に背を向け、素早い足取りで路地の奥へと走っていった。途中裏道に入り、姿が見えなくなると、その足音もまた遠のいてゆき、ついには全く聞こえなくなった。

「……な」

 そこでようやく我に返ったらしく、プリシラがかすれた声をあげた。

「な、なに考えてんのよ。犯罪者を見過ごすなんて!」
「この土星級阿呆」
「誰がよ」

 お前以外に誰がいる。

「強盗にしても、肝心の被害者が出てないだろう。証拠もなしに官憲に突き出しても仕方あるまいに」
「わたしがいるじゃない!」
「じゃ、証言するか。身元明かして」
「……あ」

 もちろんこいつがのこのこ詰め所に出向いて事件の証言などできるわけがない。ただ外出がバレてしまうというだけでなく、王女自ら危険な街を出歩くなど言語道断という家臣の諫言を、自ら肯定してしまうようなものだからだ。
 プリシラはそのことにようやく気づいたらしく、悔しそうに唇を噛み、男達の去っていった裏道を黙って睨みつけていた。
 ……本当は証言や被害届など必要ないと思うが。あいつらは俺と同じ外国人傭兵だったようだ。最近の外国人犯罪の増加は、それこそ、碌な証拠もなしに容疑者を地下牢送りにできてしまうぐらいに、行政部に危機感を与えている。
 それでも俺様が奴らを見逃してやった理由は、よりにもよって王女に手を出したなんてことが城の奴等に知られたら、外国人全員の即時強行排斥なんて暴挙が実行に移されるかもしれないと考えたからだ。
 戦争が終わればそうでなくとも俺は(一時)国外に脱出することになるだろうが、今、ヴァルファを残したままここを去るわけにはいかない。
 と、そんなことを考えている途中、プリシラがこっちをジト目で睨んでいることに気がついた。

「……あいつら、あなたの仲間だったみたいね。どうにかできないの」
「あんなのは仲間でもなんでもない」
「よく言うわ……」
「実際なんでもないぞ。それにどうにかする権限は無い。お前と違ってな」

 プリシラは俺の最後の言葉に反応し、それまでのいらついた様子を隠さなかった態度を一変させ、ばつが悪そうに目を伏せた。

「……外国人傭兵を増やせば、治安が悪くなる。そんなことは受け入れる前から分かっていたわ」

 プリシラはそう言うと、ふうと小さくため息をついてから、また言葉を続けた。

「翁の言うように排斥するなんて論外。……けど、対策は示せなかった」
「己の無能を告白しているようなものだな」
「…………そう、ね」
「本当に無能で救いがたい馬鹿でどうしようもなく愚劣な負け犬だな貴様は」
「……そ」
「更に言えば、そんな無能な負け犬であるにも関わらず尊大な態度を取り続けている貴様は、反省を知らぬという点で負け犬にすら劣る、犬畜生未満のミジンコ的存在であるとも言えるな」
「……そ……ん……」

 地底から響くような低い声が、プリシラから聞こえてきた。
 なんだ? 耳を済ませてみる。

「そ……んなわけないでしょーが!

 ……耳にキーンと来た。

「ちょっと弱み見つけたからって言わせとけば好き放題に、ホント容赦ないわねあなた! こんな美少女が珍しくも落ち込んでるっていうのに、優しく慰めてあげようって気持ちにはならないの!?」

 プリシラは路地裏の湿った空気すら吹き飛ばしてしまいそうなほど躍動感溢れる声を張り上げ、怒鳴りつけてきた。俺の顔にほとんど触れそうな勢いで、顔の中心をビシリと指差してくる。

「いやそんな男じゃないことは知ってたけど、っていうかそんな言葉かけられたら気持ち悪いことこの上ないけどね!」

 そこでプリシラの言葉が止まった。指は俺の顔に突きつけたまま、はぁはぁと荒く息をついている。息遣いだけを見れば何となく色っぽい様子と取れないこともないが、凶暴な表情がその期待を完璧にぶち壊している。
 勝手に自己完結したようなので、用件だけ告げよう。

「話は済んだか。俺様は忙しいんだが、もう行ってもいいか」
「……。外国人排斥云々以前に、あなたには今すぐ国外退去してもらいたいわね」
「はっはっは、冗談が上手くなったな」
「存在自体が冗談みたいな奴には及ばないわよ」
「何をわけのわからんことを。じゃあ、行くぞ。いいな」

 プリシラから言葉が返ってこないので、俺はそれを了承とみなし(了承されなくても帰るが)踵を返して帰路に着いた。シーエアーの自室は、男達が去っていった方向とは反対の方向だ。

「……本当に、どうにもならないの?」

 プリシラに背を向けて数歩踏み出したところで、後ろから真剣さを含む声が聞こえてきた。
 俺は振り返らず、手の平をうしろに向けてぴらぴらと適当に腕を振り、彼女の問いに対する答えを告げた。

「俺様は無敵だ」

 そしてまた歩みを再開した。
 振り返らずに後ろを見る。
 プリシラは呆気に取られたふうな顔をしながら、ぽつりと小さく言葉を漏らしていた。

「……全然答えになってないわよ」






 日中に自室で静かな時間を過ごすことは、最早俺には叶わぬ夢らしい。
 紅茶を入れて菓子を用意してさあ飲むか、とカップに唇をつけたところで、扉のきしむ音が部屋に響く。そしてそれに続くのは、聞き飽きた男の声。

「隊長」
「……なんだ」

 俺はいやいや返事をし、首を声の方向に回した。俺様の部屋にノックも無しに入り込むとは万死に値する許し難い行為だ。
 不機嫌オーラを隠さない俺を、しかし奴は意にも介さず土足で近づいてきた。ぎしぎしとボロい床板が鳴る。

「俺様の数少ない休憩時間を土足で踏みにじるとは貴様、覚悟はできているんだろうな」
「休暇を規定の十五倍も取ってる方の言葉とは思えませんが」
「その程度だったか。それで用件はなんだ」
「……。とにかく、緊急事態です。その紅茶を飲むことさえままならなくなります、このままだと」
「なんだと?」

 俺はカップを置き、副長の方に椅子を向けた。
 よく見ると、窓から陽光が降り注いできているのにも関わらず、副長の顔には暗い影が差していた。不気味な雰囲気、と言い切っても良いだろう。前々から不幸な奴だとは思っていたが、自力で影まで生み出せるようになってしまったとは、最近はますます不幸らしいな。
 いや、それはそれとしてだ。

「どういうことだ。説明しろ」
「予算がありません」
「そうか。短い付き合いだったな」
「は?」
「一撃で楽にしてやろう」

 俺は言いながら椅子から立ち上がり、副長のベルトに吊られたボロい鞘から剣を抜いた。自前の剣ではない理由は、抵抗力を無くすためだ。
 副長は刃のきらめきを見ると一瞬、阿呆のようにぽかんと口を開けた。次いで驚愕の表情を浮かべ、だだだっと床板を蹴破らんばかりの勢いで後ずさる。その背が木張りの壁に張り付き、ごちん、と壁に鎧が衝突する音が部屋に響いた。

「どうした、なぜ逃げる。罪悪感に駆られて着服を自首しに来たんだろう」
「なっ、何考えてんですか! そんなわけないでしょう!」
「違うのか?」
「完全に違います! 単純に上から予算が下りてこないんです。そんな、着服するような金なんて余ってません! それを降ろしてください!」

 なんだ違ったか。つまらん。
 俺は抜き身の剣を一旦机の上に置いた。それで安心したのか、副長がはあと溜息を吐きながら、懐に手をやった。

「見てください」

 数枚の羊皮紙を取り出し、そのうちの一枚をびしっと俺の目の前に突き付けてくる。

「なんだこれは」
「会計です」

 プラスだのマイナスだのが頭に付いた数字がびっしりと書き込まれた羊皮紙を覗きこむ。
 なんというか――これだけ見ても、詳細はさっぱりわからん。

「これに何か問題でも?」
「大有りです」
「説明しろ、説明」
「端的に言いますと、支出が収入の五割増しになっています」

 はじめからそれだけ言えよ。

「ふん。それはひどいな」
「ひどいなんてもんじゃないですよ。給料を遅配の上遅配にすることで凌いでいますが、このままですと、部隊の秩序は今月中に崩壊します」
「言い切ったな」
「言い切りますとも。生活に困って犯罪に手を染めようとする奴まで出てくる始末です。実行は一応思いとどまらせることができましたが、いつまでも抑えてはおけません」
「ふん……」

 この優柔不断爆発な男にしては珍しくよく口が回る。内容は気に食わんが。
 しかし、事態はそれだけ深刻ということになる。何しろ今現在、俺様の部隊の実情を最も正確に把握しているのは、この冴えない男に他ならないからだ。
 ……隊長である俺様を差し置いてこの野郎、などと思わないでもないが、まあそれはともかく。

「わからんな。一年半ぐらい前までは、充分とは言えずとも普通に金が回ってきていたはずだが」
「わけのわからない理由で減額されてるんです。ここ数ヶ月間、本来の予算の二割近くが、関係ない施設の利用費だとか維持費だとかの名目で天引きされてました」
「数ヶ月だと? 陳情は」
「しましたが、音沙汰ありません」
「第二以下の中隊は」
「同じのようです、定例会議は大荒れですよ」

 俺が次々繰り出す質問に、ノータイムで答えていく。質問内容を予測していたようだ。
 ちっ。さっきから手の内で転がされているようで、なんとなく不愉快だ。

「傭兵部隊全体への嫌がらせ、と見たほうがいいでしょうね」
「ふん……活躍に対する上層部の妬みか、あるいは傭兵のうち誰かが、奴らに恨みを持たれたとかかな」

 そこで一人、そのような権限と動機を持つ女が頭に浮かんだが……おそらく違うな。それほどの馬鹿ではない……とは言い切れないが、そもそも問題発生からもう数ヶ月となると、時期が違ってくる。

「……隊長に恨みを持つ上層部の連中が?」

 おい。なぜそこに俺が出てくるのだ。

「無礼の権化みたいな奴だな貴様は。妬まれるのは仕方ないが、誰かに恨まれるような真似を俺様がするとでも思うのか?」
「全力で思いますね」
「そうか」

 死にたいようだ。
 剣をぶんっ、と振り上げる。

「……! 思い、ませ、ん!」

 副長は剣を頭上にかざす俺を見て、本気で激昂しているとでも思ったのか――いや二割くらいは本気だったが――言葉を詰まらせながら俺との距離を取ろうとした。その形相は必死なものだった。ああ、この上なく愉快だ。
 さてそれはそうと、こればかりは放っておくわけにはいかない。戦闘において俺の盾となり俺の為に死ぬべきコマが、戦う前に脱走やら逮捕やらで目減りしてしまうという事態は、できれば避けたい。

「根性で何とか」
「……なりません」

 とりあえずすぐに斬られることはなさそうだ、と安心したのか、副長は緊張を幾分やわらげながら答えた。

「そこを無理して、俺様の信頼に応えてなんとかしてやろうという気概は」
「そーゆー気概が全くないとは申しませんが、無理なものは無理です。限界に達したので相談に来たんです」

 ちっ。割と無茶な仕事を押し付けても、今までそれをこなしてきた実績を持つこいつなら今回も、と期待してみたのだが。
 俺様の信頼を裏切る万死に値する行為だが、その報復は後にするとして、まずはこの緊急事態を解決せねばならない。なぜって生まれたときから偉大な俺様の素晴らしい能力の真髄は、今この時のような窮地でこそ、発揮されるべきものだからだ。……なんで呆れてるんだそこの虫。

「仕方ない。優しく優秀で人徳溢れる俺様が、貴様の愚かしい所業の後始末をしてやろう」
「(……もともと隊長の仕事なんですけど)」
「なにか言ったか」
「いえ」
「ふん。足元のそれを取ってみろ」
「は? ああ、この革袋ですか?」

 副長は木屑や各種特殊道具で散らかった床の上を一通り見渡すと、かがみこみ、ひょいと革袋をつまんだ。
 その意外な重さに少しばかり驚いているようだ。袋を俺と交互に見つめながら、ぶらぶらと両手で弄んでいる。

「それで適当に対処しろ」

 それを聞いてもまだ不可思議な表情をしている(なんて愚鈍な奴だ)副長に、開けてみろ、と促す。
 がさがさと口を拡げる音と共に、ごくんと喉の鳴る音が聞こえた。

「こんな大金、どこから用意…………! まさか」

 しばらく目を丸くして袋の中身を凝視していた副長だったが、突如俺の方に何かを訝しがるような視線を向けてくる。

「まさか?」
「……隊長が着服していた……?」
「死にたいか?」
「じょ、冗談ですよ」

 俺が相手ならまだ冗談で済むがな。

「それで、これは一体」
「俺の私有財産だ。爆謝しろ」
「……なんすか爆謝って」
「感涙むせび泣くあまり爆死せざるを得ないほど感謝する、という意味だ」
「……」

 何わけのわかんねーことを言ってんだこの人は、と目で言う副長。ん? どうすれば目でものを言えるんだって? いーや俺にはわかる。無礼なことを考えている奴は眼を見れば一発でわかる。後で関節技だ。
 ああそこの虫、何故目障りに両手を上げている。何か文句あるか。ないな、よし。

「……どっから手に入れたんですか?」
「金は力だ」
「答えになってませんよ」
「うるさい。なんで貴様ごときに俺の収入源まで明かさねばならんのだ」
「ま、そうですけどね……。とにかく、ありがとうございます。当面はこれで何とかしてみます」
「うむ。行動で返せよ」

 わかりました、と答えて部屋を出て行こうとする副長を、呼びとめ、一つの事柄を確認する。

「確かに受け取ったな」
「……? はい、受け取りましたが」
「うむ。ではさっさと帰れ。さあさあ」
「……はあ」

 よし。
 何か釈然としない、とでも言いたげな副長を部屋から追い出し、俺は冷めてしまった紅茶を一気に呷った。高級茶といえどその風味は殆ど全て飛んでいってしまったようで、さっきまでは俺の好みに合わせた絶妙なブレンドだった紅茶も、ただの砂糖水ぐらいにしか感じられなかった。
 俺は空のカップを放り出し、ぎしぎしと鳴る床板を踏みしめてベッドまで行き、くすんだシーツの上に座り込んだ。そのまま重力に任せてごろんと寝転んでみる。
 面倒ごとをまとめて片付けられたおかげか、妙に気分が良い。このまま一眠りいくとしよう……。

 
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