「俺のことが、好き、ですって?」
■様子を見るため、うつむいた顔をのぞきこむ(罠)
□「なーんて、冗談ですははは」
思わず口に出してしまった言葉に、黙りこむまーりゃん先輩の顔を覗き込んだ。デリケートな部分に触れてしまったのだろうか。
「ふ」
しまった。
何で覗き込んでしまったのだ、俺は。危険だとわかっていたはずなのに。
こんなことでヘコむ人ではないとわかっていたはずなのに。
俺は既に確信していた。これは、END直行の選択肢だと。
BADだかGOODだかは、俺の認識次第であると。
まーりゃん先輩の目は怪しく光っていた。口はくふふと笑っていた。
とてつもなく、不安になる表情だった。地雷を踏んだ。それも核地雷だ。
「ふふふ。ふふふふふ!」
ぶきみなわらいがまーりゃん先輩の顔に浮かんでいた。
1ターン失神してしまいそうなほど不気味だ。少なくとも俺にとっては。
「思ったか? 『……あ……』とか意味深と見せかけて実はあなたを愛してるーんしか脳に無いようなベタな展開に、この恋愛大魔王様が持ち込むと思ったか!? 後輩がチラと見せる頼もしさに惹かれながらも想いを胸に秘めていると思ったか!?」
「まったく思いません!」
まーりゃん先輩は、ばっと振り返ると、両手を広げて自信満々に言った。
「そうだたかりゃん! あたしは行くときは直球で行くぞ! ときめき度も好感度もぶっとばし、漢字テストもバッドエンドも巻き戻し、全部のフラグを全力で折り、全ての伏線を無視して、あたしは高らかに言うぞ!」
こころなしか、まーりゃん先輩の頬は紅潮していた。
それが照れによるものか、興奮によるものか、夕日のせいか、それともまったく別の感情によるものなのか、もう、俺にとってはどれでもよかった。
「たかりゃん!」
まーりゃん先輩は、くるりと回ると、人差し指を俺に突き付けて言った。
その頬は、疑いようも無く真っ赤に染まっていた。
「あたしにはお前が必要だ! あたしの恋人になれ!」
結局、そういうひとなのだ。まーりゃん先輩は。
「先輩」
「きゃっかだ!」
なんで!?
「まだ何も言ってません!」
「言わなくてもわかる! 言うな!」
「嫌です、言います!」
「言うと死ぬぞ! ええいあたしは混乱している、いやしのつえで攻撃しろ!」
じたばたと手をばたつかせるまーりゃん先輩。なぜか頭の上でブーメランをくるくる回している。この期に及んでこの人はまったく。
しかし、さて。決心の程を示す攻撃といえば。やはりこれしかないのだろう。正直とても恥ずかしい。意味がわからない。まーりゃん先輩と同じぐらい、俺は混乱している。
ただ、これだけは真実だ。
「む――――!」
この人と、ずっと一緒にいたいと思う。それだけは、間違いなく真実の感情
だった。
俺はまーりゃん先輩にキスをした。
まーりゃん先輩の唇は、ミントの味がする。とてもベタだった。
「ぷはっ」
「もう一回」
「むぐ!?」
今度は、いやらしい感じがした。とても気持ちよかった。
「ぷはあっ! はあ、はあ、はあ!」
たっぷり数十秒の後、まーりゃん先輩と俺は、糸を引きながら唇を離した。
「好きかどうとかはわかりません。でも、一緒にいたいと思います。まーりゃん先輩」
勇気をどこかにおいて、俺は言った。
間違いなく俺は暴走している。けど、きっとそのぐらいでちょうどいいのだ。
まーりゃん先輩が教えてくれたように。
「く、ぐ、や、やるな、スキとか嫌いとか最初に言い出すのがたかりゃんとわっ!」
「声が震えてます」
まーりゃん先輩が動揺しているところを見るのは、多分これが最初で最後だろう。そんな中でもらしさを失わないのはさすがの一言だ。尊敬はしないが。
だから、目いっぱいからかってやることにした。
「ぐ、え、け、そ、だ」
「直球で行くんじゃなかったのですか」
「ぐぐっっ! そうだった! ええーいよし、直球で行くぞ!」
「はい!」
「たかりゃん! あたしとセックスしろー!」
直球過ぎだあ!
「ぐはあっ!」
無理でした。からかうなんて無謀そのものでした。動揺していようがなんだろうが、この人俺より数倍上手です。つーか紅潮した顔でそんなこと言われたらぜってぇ勝てない。
「こ、ここでは無理です!」
「なぜだ!」
「人が来ます!」
「お月様だけだ! 逃げるなあたしのえくすかりばぁ!」
言うと、先輩はいきなり俺を押し倒した。先輩の股間が膝に当たる。
「なんでまーりゃん先輩が言うとなんでも卑猥になるんですかぁ!」
「ええーい四の五の言わず、黙って……!?」
先輩が禁断のてんてんを繰り出した。
ということは何かとんでもない事態が起きているに違いない。
というわけで、まーりゃん先輩の視線の先を辿る。
脈絡なくささら先輩がいた。
たぶん理由があったと思うが、この状況に比べればとてつもなくささいなことだ。
「あ」
「あ」
「ああ」
「あああ」
「直球勝負!」
まーりゃん先輩はとてつもない速度で立ち直る。
叫ぶと同時に神速で床を蹴り、声を上げそうなささら先輩を生徒会室に引っ張ってきて、ついでに後ろ手で鍵をかけた。
「あああああー!?」
遅れて声をあげるささら先輩。だがもう遅い。
「口封じに3Pだー! いくぞたかりゃん、さーりゃん!」
そして高らかに宣言した。暴走に次ぐ暴走。もう誰にも止められない。
それ明らかに直球じゃないから。世界一周して背中にデッドボール食らわせてますから。
「いいなさーりゃん!」
耳まで真っ赤に染めて、まーりゃん先輩が言った。もう行くとこまで行ってしまっているらしい。
「え、ええっ!?」
「えーと」
いきなりささら先輩の胸をはだけそうなまーりゃん先輩になんとかストップをかけ、ささら先輩に問いかける。
「とにかく、そういうことになりました」
「え」
「俺たちと、付き合ってくださいますか」
まあ、こんな方法がとてもベストだとは思えないのだが。
もう考える気力すらない。
「は」
ささら先輩はごくりとつばを飲み込むと、まーりゃん先輩と俺を交互に見つめて、それから、迷い無く言った。
「はい」
さすが、年季の違う人は決断も早かった。
「ではGO!」
今度こそ行くのだ。
これが青春かというと、間違いな気がするが、まーもうどうでもいいや。
少なくとも、今俺達は充実しているし。そうだよな先輩。
(END 19)
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