信濃の地。数万の大軍同士が、平原に相対していた。
 東に武田軍。隆起した丘を背後にかかえて陣を張り、数千の精鋭騎馬兵を両翼それぞれに配していた。中央には足軽兵と武士隊がバランス良く配置されている。
 西に織田軍。再び武田領に侵攻してきた彼らは、平野に鶴翼の陣を張っている。中央に武士隊、両翼に足軽兵。兵数は武田軍よりやや多い。
 織田軍の足軽の後方には、密集体系の小隊がちらほらと見え隠れしている。足軽達がてばさきを防いでいる間に弓で殲滅するつもりかもしれない。
 が、武田軍の最高指揮官である山県昌景と、もう一人の将軍・真田透琳の目は敵陣中央に向いていた。
 中央に織田信長が陣取り、異様な存在感を見せ付けているからだ。信長の周囲の空気が黒ずんで見えるのは、決して気のせいではあるまい。
 信長は昌景と透琳の視線に気付いているらしく、ときおり二人を見ては、くっくっと笑いを漏らしていた。

 挑発とも取れる信長の仕草だが、二人は動じなかった。
 作戦はあった。両翼は交錯突撃の後、反転。敵の後詰めをかく乱の後、戦場を離脱し帰還する。
 敵の進軍のスピードを緩めるための時間稼ぎだ。武田軍としては珍しく消極的とも言える戦術だ。

 そもそも二人にはこの戦場で決着を付けるつもりがなかった。というより、決着は不可能だ。
 敵指揮官は信長、即ち魔人。ランスとカオスを信じるなら、信長を倒すには彼らが必要不可欠だ。しかしランスは徳川戦の迎撃にあたっており不在。呼び戻している時間は無い。

 この作戦ならば、信長と直接当たることは少ないはずだ。
 透琳がカオスの知恵とマリスの経験を参考に立案した、ランス不在の場合の対魔人戦術である。


 しばらくそのまま対峙していた両軍だったが、日が天頂に達した頃に動きを見せ始める。
 先に動いたのは織田軍だ。数千の遊撃隊が陣を離れ、前進の動きを見せる。武田軍の機動力を潰そうというつもりだろう。
「どうれ。行くとするか」
 動き出した敵軍を見て、昌景が早速動く。あぶみを踏んで、軍配をしゃっと引き、前線に赴く。
「ご武運を」
 全軍の指揮を透琳が引き継ぐ。武田軍が柔軟な組織構成であり、かつ二人が同格の四将軍であるからこそ可能な、指揮権交代だ。
 昌景は戦略指揮官としても優れているが、部隊指揮官としては右に出るものがいない。彼が直接統率した部隊の破壊力、突破力は、正に戦国最強。これを活用しない手は無かった。

「突撃!」
 昌景の怒号で、戦が始まった。
 一瞬前までざわめきに包まれていた戦場に、てばさきの駆ける轟音が響き渡る。
 昌景率いる三千の騎馬隊は、偃月の陣を保ちつつ織田軍に接近すると、申し訳程度に張られた馬防柵や落とし穴をゆうゆうと迂回し、あるいは飛び越え、右翼の端に辿りついた。
 昌景の号令から、僅か十数秒。
 とてつもない機動力に、織田軍の足軽に恐慌が広がった。
「速すぎるっ!」
 織田軍の前線司令官は、てばさきの速さに目を見開く。
 速い。とんでもない速さだ。噂を遥かに超える機動力だ。
 これでは戦いの準備をする暇も無いではないか。
 一応、騎馬兵に対する罠として落とし穴や柵を用意したが、全く役に立っていないようだ。圧倒的な機動力に対し、線でしか展開できない罠は、簡単に無力化されてしまうらしい。
 せめて陣形だけでも崩せていれば話は変わっていただろうが、罠を避けたにも関わらず偃月の陣は崩れていない。
 どれほどの訓練を詰めば、時速八十キロの突撃の統率を保てるというのか。
 信じがたい統制と機動力を武器に、昌景隊は今正に足軽隊を蹂躙しようとしていた。
 ――が。
 織田軍の罠は、柵や穴だけではなかった。

「打ち方、はじめー!」
 足軽隊の中央、十数人の部隊に、司令官は号令をかけた。
 奇妙な筒を肩に抱えた彼らは、命令を聞くと、くいと指を引く。
 すると筒から甲高い音が鳴り響いた。音の閃光が筒から発射され、騎馬武者達の頭上を迸った。

「む」
 文字通りの音速で、甲高い音が昌景の耳に入る。
 同時に、この音が自軍に及ぼす影響を目の当たりにした。
 軍が、止まっていた。
 率いるてばさきの多くが鳴き声を上げ、左右に首を振っていた。
「昌景様!」
 昌景の周囲を固める侍のうち一人が、暴れるてばさきを抑えつつ、昌景に指示を仰いだ。
「うむ」
 昌景は音に驚いた自分のてばさきを既に御していた。普段と変わらぬ、どっしりとした構えのまま、前方を見渡し状況を把握する。
 指揮官たるもの、如何なる危機にあっても決してうろたえてはならない。そして昌景は、見た目だけではなく、内心すらも平静を保っていた。

 ――まともに動けるのは、四割というところ。
 だが四割のてばさきがいれば、縦隊の陣を組み、被害を覚悟の上で敵陣を突っ切ることができる。
 突撃の間に残りの六割も立ち直り、後に続くことができるだろう。

 いまだ作戦は遂行可能。そう判断した昌景は、部下に指令を下すべく叫ぼうとして――止めた。
 昌景の視線の先に、剣を天高く構えた信長の姿があった。
 信長は昌景の視線に気付いたのか、嘲るように笑うと、剣を振り下ろす。
 と、草原に炎が走った。高さが五メートルにも達そうかという炎が、熱気を伴って昌景隊を囲った。

 押し寄せる熱気に狼狽しかける騎馬兵達に、昌景は一喝した。
「てばさきを降りよ!」
 音に炎。誰よりも熟練した騎馬兵である昌景は、誰よりもてばさきの弱点を知り尽くしていた。もはやてばさきは役に立たない。
 苦渋の決断だが、この状況にあっては最良の選択肢である。その証拠に、昌景の号令に異を唱えるものはいなかった。
 こうなれば白兵戦しかないのだ。そのことを理解した武者達は、次々とてばさきを降り、槍を手に駆け出す。
 昌景自身も、槍を取り、先頭を駆けつつ怒声を上げた。
「ここが正念場ぞ! 者ども、意地を張れ!」
 槍を正面に抱え、徒歩の騎馬武者達は織田軍と激突した。

 互角。
 鉄砲の音と魔人の炎で霍乱され、てばさきの機動力を失ってなお、昌景率いる武田軍は織田軍と互角以上に戦っていた。
 戦いは総力戦となっていた。守りに徹し、真田隊の援軍を待つ武田軍に、織田軍主力が攻撃を加える。
 炎で武田軍が分断されているため、数は織田軍が優位だった。
 しかし、武田の強さはてばさきだけではなかった。個々の兵の力量もまた、JAPAN一と称えられている。
 信長がまだ戦に参加していないことを差し引いても、驚異的な粘りだった。
「流石は昌景殿」
 てばさきに乗り全速で駆ける透琳が、昌景達の奮闘を見て呟いた。
 足を失っても士気を失わず、織田軍と互角以上に戦い続けている。
 あの音の兵器が一発だけだったのも幸いしている。が、それでも普通の部隊ならとうの昔に崩壊しているところだ。

 この調子なら、後詰が敵軍後方に回り込める。そうなれば勝利は容易い。
 たとえ魔人が参戦したとて、一人で万を越える軍を押しつぶすことはできない。可能なら最初から一人で挑んできているはずだ。
 だが、まだ確信はできない。透琳は勝利への道に潜む障害の可能性を考えた。
「……!」
 瞬間、透琳の背に悪寒が走った。
 伝え聞くように、あの魔人がJAPAN全ての壊滅だけを願っているとすれば。
 炎も音も、足を奪うためだけの布石に過ぎないのではないか、と。

 透琳は反射的に背後を振り返る。
「透琳様?」
 怪訝そうに問いかける副官を無視し、透琳の視線は遥か後方、丘の上に向いていた。その目は驚愕に見開かれていた。
「あれは……!」
 透琳の背に、今度は悪寒ではなく戦慄が走った。
 異様にカラフルな色の固まりが、いつの間にか後方の丘に二つ、現れていたからだ。
 何かが密集して、うごめいている。何が集まっているのか?
 決まっている、織田軍だ。
 透琳が認識した瞬間、人間とは異質の怒声が、戦場に轟いた。

『グギャアアアアアアア!』
『ギャハハハハハ!』
 煉獄がJAPAN中から集めた魔物達が、いまや武田軍の背後を突くべく丘を駆け下りていた。
 怒涛のような地鳴り。決して、人間の軍隊が起こすものではない。
 人間大の魔物が数万。体長数メートル、体重数トンにまで及ぶ巨体の魔物が数千。
 彼らが起こすその地鳴りは、透琳をしてすら未経験のものだった。

「おい、あれはっ!?」
「んなあ!? で、でけええええ!」
 左翼後方にいた武田軍の足軽に、恐慌が走った。ストーンゴーレムや魔物兵といったモンスター群の中央に、一際目を引く巨体の怪物が陣取っていたからだ。
 それは全長数十メートルはあろうかという巨大な亀だった。亀は口から雷光を発しつつ、猛スピードで突撃してくる。信じがたい光景だった。

 右翼後方も似たようなものだった。巨大な魔物軍の先頭では、妙齢の美女が人間の二倍ほどもあろうかという巨大な爪を振りかざしていた。
『アハハハハハハ!』
「に、逃げろおお!」
『シネ! シネ!』
 爪が空を一閃すると、放れた場所にいた足軽の首が、二桁の数で飛んで行った。JAPANでも五指に入る武芸者ですら、同じことが可能かどうか。
 軍神・謙信とは別種の強さを持つ血塗れの美女に、武田軍の後方部隊はなす術も無く惨殺されていった。

 戦局は進む。武田軍の後方を蹂躙した織田軍――いや、魔軍は、包囲を完成させようとしていた。透琳が魔軍に気付いてから、たったの五分。その五分の間に、戦は決まった。
 各個撃破を避けるべく、透琳の本体と昌景の隊が合流するが、武田軍は明らかにモンスター達に押されていた。このままでは武田軍は全滅する。火を見るより明らかだった。
 透琳が前線に達し、昌景と合流したのは、そんな時だった。
「昌景殿、ご無事で」
「透琳。戦局は」
 即座に透琳は現在の状況を簡潔に伝えた。一言で言って、絶望的だ。
 昌景はゆっくりとうなずくと、間をおかずに言った。
「透琳。ゆけ」
 昌景は言葉を続けた。
「信濃に戻り、防備を固めて援軍を待て。しんがりはワシが務めよう」
「昌景殿ッ?」
 透琳は驚愕した。戦場に留まれば、膨大な数の魔物に包囲されたまま、魔人と対峙することになる。生還は絶望的だ。
 今の状況で殿を務めるというのは、ほとんど自殺行為そのものだ。
「ここで我等が完膚なきまでに敗れれば、武田の魂は歴史の塵と消える。ヤツらはワシが食い止める。お主は戻れ」
「ですが昌景殿。なぜ私ではなく、あなたが」
 昌景の言の前半は正しい。だが透琳が昌景を差し置いて逃げる理由にはならない。
 武田全軍の大黒柱である昌景を今失う方が、武田家にとって大きな痛手であるはずだ。
 客観的に考えても、殿にはまず自分が残るべきだ。透琳はそう考える。
「いいや」
 しかし昌景は首を振った。駆るてばさきを透琳の方に向けて、重々しく口を開く。
「透琳よ。戦は国を切り開く為に、国は魂を具現化する為に。そう説いたのは、お主ではなかったか」
 昌景は槍を手に取った。
「お館様のおらぬ今、武田の魂を本当の意味で理解しているのは、家中でもお主だけだろう。ワシらは所詮、一介の武人に過ぎぬのだ」
 昌景は魂の行く先を切り開く矛であり、守る盾なのだ。
「もう一度言うぞ。兵をまとめ、包囲を抜けよ」
 なれば、選択肢はもとより存在し得なかった。

 苦渋の思いで去った透琳を、僅かの間見送ると、昌景は低い声で呟いた。
「透琳。誓いを果せ」
 そして魔軍に目を向ける。後方の魔軍の数は、ゆうに三万を越えていた。前方の織田軍と合わせれば五万。
 戦国のJAPANでも、久しく例の無い大軍だ。
 この絶望的多数の相手を食い止め、透琳の退却を助けなければならない。
 昌景は、しかし不敵に笑うと言った。
「ふむ。腕が鳴るわ」
 武田家にとっては最大の危機だ。だからこそ、武人の血が騒いだ。


 一方、戦場の端では、数十人の部隊が休憩を取っていた。
 戦場の喧騒もどこ吹く風、といった感じだ。
「ふー。おーい、そっちはどーだー?」
「ダメです。完全に変形してますね」
 指揮官兼、技術顧問の重彦が、ためいきをついた。
 未完成の切り札を無理矢理投入したせいで、銃身が持たなかったのだ。第二射が遅れているのもそのせいだった。
 とはいえ大勢に影響は無いだろう。戦は決まった。織田軍の圧勝だ。
 あとはどれだけ武田軍が生き残れるか、それだけだ。
「けどなあ」
 にも関わらず重彦の表情は暗かった。鉄砲がてばさきに勝った! と喜ぶ気にもなれない。
 火薬よりもキナ臭いにおいが、織田信長から漂ってきているからだ。味方すら焼き殺しかねない炎、そして魔物。織田とは一体何なのか。
「やれやれ。柚美はうまくやってるかね」
 リスク分散として相手方に売り込みに行った、親友の娘の名をつぶやきつつ、重彦は鉄砲の掃除を再開した。


 昌景は織田軍にとって悪夢とも言えるほど、善戦した。
 なんとか回復した少数のてばさきを駆って、まず包囲網を突き破る。次に主力の脱出を助けるべく、包囲の外から攻撃を仕掛けた。
 二度の攻撃と三度の迎撃で、透琳率いる主力は脱出できた。
 それからは、泥沼のゲリラ戦だ。
 追撃を続ける織田軍の横腹に対し、騎馬兵の機動力を生かしあらゆる角度から奇襲をかける。それを六度、繰り返した。襲撃のたびに昌景隊は自軍の十倍する損害を敵に与え、進軍を鈍らせた。

 昌景は三百を率いて、織田軍先鋒の五千と互角以上に戦った。もし三百が倍であれば三倍の戦果を上げ、十倍、つまり本来の兵数であれば、戦局そのものを覆していただろう。
 いまや虚しき予測だった。

「昌景様! 正面に軍影、ありません!」
「うむ」
 七度目の襲撃を終えた頃には、騎馬兵の数は僅か数十にまで減っていた。昌景自身も、少なからぬ手傷を負っている。
 疲労は限界に来ていた。まず、昼から夕方まで戦い漬けだ。普通の戦の三倍は動き続けている。そのうえ迫り繰る炎が猛烈な熱となって兵達から体力を奪っていた。
 戦う余力を持った者は、もはや二桁にも達しないだろう。
 そもそもてばさきは持久戦向きの生き物ではない。そのうえ苦手とする炎と音で二重に攻め立てられている。ここまで持ったこと自体が奇跡と言える。

 無論、昌景はこの窮状を把握していた。限界を超えた運用が破綻を迎える前に、戦場を脱出しなければならない。
 昌景は視線を前に向けた。
 近辺には敵軍はいない。この先の谷を抜ければ、信濃の地に辿り付ける。援軍も期待できる。

 だが。
 昌景は気を引き締めると、いっそう鋭い目つき前方に目を凝らした。
 織田信長は、残虐かつ非道で、そして優れた兵法家だ。
 有能な指揮官であれば、この逃走経路を見逃すはずもない。もし昌景が逆の立場であれば、昌景自身が兵を率いてこの地に陣取っているはずだ。

 昌景の考えは正しかった。
「ふっ、やってくれる。まさか退却を許すとはな」
 谷を進む昌景たちの前方に、一人の男が立ちはだかる。
 男の足元には、黒い丘が隆起している。消し炭となった武田の雑兵達で構成された丘だ。
 戦慄すら感じさせるその風景は、明らかにその男一人によって生み出されていた。
「将よ。褒美に貴様は、我自ら殺してやろう」
 一にして千を屠るもの。魔人、織田信長である。


「散開だ」
 昌景は振り返り、命令を下した。反論は許さない。最後まで付き従いたがる部下に、有無を言わさず令を発す。
 透琳達に昌景が残すものは、ただ武名をおいて他にない。ならば既に道は決まっていた。
「生きよ。そして、伝えるのだ。散り行く者の最期を」
 背後から聞こえてくる静止の声を背中だけで制し、昌景はてばさきを一歩前に進めた。
 信長は面白そうに剣先でこつこつと地面を叩いて哂った。昌景の行動がおかしくてたまらないようだ。
「滑稽だな、将よ」
「――」
「どれだけもがこうと、全ては我が手の内の些事。貴様ら全員の断末魔の声が上がるまで、逃げる先などこのちっぽけな島のどこにも存在せぬわ」
 昌景は無言のまま信長に槍を向けた。
 この者と言葉を交わすつもりなど毛頭なかった。
 てばさきの腹を強く締め、昌景は跳んだ。

 信長までの距離は数十メートル。昌景にかかれば、ひと呼吸の距離だ。
 乗騎が地に足を着けること三度。それぞれに角度を付け、大きな弧を描きつつ、昌景は信長に襲い掛かった。
「馬鹿め」
 信長は腕を上げて昌景を指差した。とたん、指の先から黒い光が迸って、昌景を覆う。
 昌景はてばさきもろとも、ごう、と激しく燃え上がった。
 にも関わらず、昌景は突進し続けた。炎を身に纏ったままだ。
「なに?」
 驚く信長。
「ゆくぞ――魔人よ」
 昌景は確信していた。
 亡き主君の夢のため、残された朋友と民達に向けて己が最後に残せるものは、何人にも屈さぬ武人としての誇りのみだ。
 たとえ魔人が相手であろうと、自らの意地を貫き通せ。
 痛みを鋼鉄の精神で押さえ込み、昌景は豪壮な叫びを上げた。
「我らの誇り、とくと見よッ!」
 言い切って昌景は槍を突き出した。肉を消し炭にし視界を覆いつくす炎も、昌景の突進を阻む障害とはなりえなかった。
 猛烈な突進の先端が、炎を潜り抜けて信長の心臓めがけ一直線に吸い込まれた。
 昌景の槍が体に達する――前に、信長が動いた。
「――ふ」
 剣を抜き、振り下ろす。
 それだけで、魔人の剣は必殺の威力を発揮する。
 音速を超えた刃が破裂音を周囲に轟かせた。剣の軌跡に沿って空間に闇の裂け目が走った。裂け目から黒く燃え盛る炎が生み出て爆発し、激烈な衝撃波と共に昌景を襲った。
 地面が抉れ、焼かれ、周囲一帯が荒れ狂う黒の炎に塗りつぶされた。
 地に生きるもの全てを嘲笑うかのような、凄まじい一撃だった。
 昌景は愛馬と、そしてその命もろとも、一刀のもとに両断された。

「くっ」
 黒く脈打つ波動が信長の刃を中心として展開している。信長の一撃の余波に、空が震えているのだ。
 その信長の足元には、黒い残骸が転がっていた。
「くくく」
 信長は左手でそこから何かを掴み上げ、哂った。
「くはは、ははははははは……!」
 戦国最強と称えられた将軍の燃え上がる首級を手にして、信長は狂える哂いを上げ続けた。
 
return to index
感想・連絡・苦情その他ありましたら掲示板または下記フォームにお寄せください。
執筆意欲になります。あと作者が泣いて喜びます。返信不要の場合、末尾に『/返信不要』とお付けください。