時刻は既に夜の十時半を回っていたが、大広間はなおも活気に溢れていた。中央奥、一段高い板間にはランスと香が並んで座っている。
 信長との決戦後、香から軍に関する全権を委譲されたランスは、大将軍に抜擢されていた。
 そのランス達の前で、二十人余りの重臣達が、強行派と慎重派に分かれて議論を繰り広げていた。強行派は、領内に多少の損害を覚悟してでも追撃を再開すべきであると主張し、一方の慎重派は、再度反抗してきた上杉・北条を叩き潰してから進軍すべしと主張している。
 しかし議論は停滞していた。普段であればこんな時は、四将軍ら家老が議論を纏めるところだ。が、この場の三人は、なぜか一様に意見を発さず、じっとランスを見つめていた。
 品定めをするかのようだった。

 三人の視線も重臣達の議論もどこ吹く風といった感じで、ランスはしばらくの間黙って座っていた。
 が、やがて大きくあくびをしてから、苛立たしげに拳で床を叩いた。ばん、という音と共に広間は静まり返る。
「えーい。まだるっこしいぞ」
 侍達の厳つい顔が、いっせいにランスの方に向いた。

 信玄と同じ顔のこの大将軍に対し、畏敬の念を払う者は多い。何しろ実績が尋常ではない。上杉謙信に本多忠勝、信長といった名だたる武将を打ち倒してきた男なのだ。
 とはいえ妬みや恨みを抱く者もまた数多い。武田家に来てから僅か半年で四将軍を超える地位に就いた男である。しかもランスの傍若無人っぷりは尋常ではないのだ。重臣の中には自分の娘や妹が手篭めにされた者もいた。

 そんな不満を持つ重臣の一人が、ランスの前に進み出て問いかけた。
「いかがなさいました?」
 ランスは不機嫌そうな表情のまま言った。
「いかがもへちまもあるか。こんな議論なんか無駄だ、さっさと戦の準備をしろ。魔人は倒す、狸も倒す、メガネも倒す。全部まとめてぶっ殺す」
 言い切って、ふん、と胸を張るランス。強行派の一部の武官が頷いた。
「しかし、全てに軍を割く余裕などありませんぞ」
 と、進み出た男が反論した。
 ただでさえ三正面作戦なのだ。謙信が上杉軍を抑えていなければ四正面作戦なのだ。防衛ならともかく、北条に軍を振り向けたまま織田領を攻める余裕など、あるはずもない。
 男はそのことを論理的に述べてから、ランスに再度問い返した。
「ランス殿は、この貝を北条や徳川に明け渡すつもりですか?」
「そんな訳あるか。JAPANは全部俺様のものだ」
「であれば、防衛戦力は残さねばなりませんな。それでは攻勢に組み込める軍勢は、せいぜい二千といったところですぞ」
「む」
 その十倍あっても、尾張まで攻め落とすには足りないだろう。
 とても足りない。はっきり言って不可能だ。
 それみたことか、といった様子で、男はランスを睨んだ。
「それともランス殿は何か、兵力差を覆す秘策でもお持ちですか?」
 あるわけがない。言外にそう語る口調だった。
 そんな秘策があれば、とっくに実行に移しているはずなのだ。

 しかしランスの反応は男の予想を遥かに超えていた。
 ランスは天井を見上げ、しばらくの間不機嫌そうに唸っていたが、やがてにんまりと笑った。
「ふふん」
 ランスはばたんと音を立てて豪快に立ち上がると、衆目を見下ろして自信満々に言った。
「もちろん、ある!」
 大広間がどよめいた。
「な、なんですとっ!?」
「俺様の超絶クレバーな頭脳は、既に必殺の作戦を実行に移しているのだ」
 ランスの大口に、重臣達は周囲と目を見合わせた。
 本当に秘策があるのか。まさか。いや、ランス殿なら。
 肯定と否定の両方の意見が、ざわめきとなって広がる。
 そんな中、ランスは更に言葉を続けた。
「どこから漏れるかわからんから内容はまだ言えんが、スーパーな俺様の考えたこの秘策なら、メガネも狸も魔人もじじいも、すぐにいちころだ。がはははははは!」
「そんな、奇跡的なことが……」
 口々にそう呟く武将達。
 あまりに非現実的かつ何の具体性もないが、ランスの自信と実績だけが、本物の響きを与えていた。
 ランスの大言の真偽を確かめようと、幾人かが透琳や彰炎に視線を向ける。秘密の作戦といえど、さすがに四将軍であれば事前に承知しているだろう。
「……」
 透琳達は、しかしなおも沈黙を保ち続けていた。
 その事実に武将達は少なからず驚きを覚える。ここで発言が無いということは、同意と同じことだ。
 つまり、本当に何か秘策があるということだ。
「では解散だ解散! 大船に乗ったつもりで待っていろ、がははははは」
 ランスの笑い声で、軍議は終了となった。

 十数分後、人気の無くなった大広間に、三人が残っていた。香とマリス、それに透琳である。ちなみにランスは一番最初に退席してしまっている。
「あの……」
 周囲を見回し、人気が無くなったのを確認してから、香が話を切り出した。
 マリスと透琳に、聞きたいことがあった。それを感じ取ったからこそ、二人もこの場に残ったのだろうと思った。
「ランスさんには、本当に秘策があるんでしょうか?」
 立場上言い出せずにいたが、自分はそんな作戦のことなど、何も聞いていない。武田の軍略を取り仕切る透琳と、ランスの個人的な参謀であるマリスなら、知っているだろう。
 香の素朴な疑問に、透琳とマリスは一瞬視線を突き合わせる。そして、真面目な顔で同時に言った。
「無いですな」
「ありませんね」
 香は間抜けにも口をぽかん、と開けてしまった。
 反射的に口に手を当て、視線を左右にせわしなく動かす。
「え、わ、わわ」
 慌てた。慌てずにはいられない。透琳や彰炎の推薦もあってランスを総大将に任命したのだが、その選択は間違っていたのだろうか――
 と、香が言い出す前に、透琳が口を挟んだ。
「では、香姫様もお休みになられてください」
「ええっ!?」
「大将軍が待て、と言ったのです。従うべきでしょう」
「で、でもさっき、何も考えてないと」
「香姫様」
 マリスが香の言葉を遮って発言する。
「例え根拠が無くとも、一度大将が口に出したこと。必ず私達が実現して見せます。今しばらくお時間をいただけますか」
 香はそれでいいのか、とあんぐりと口をあけた。つまりランスの大言の尻拭いをマリス達がする、ということだ。
「だ……大丈夫でしょうか?」
「大船に乗ったつもりで。ご信頼ください」
 完全に納得した訳ではなかったが、ランスに任せたのは確かに自分である。
 なんだかうまく丸め込まれた気がしたものの、香はこくりと頷くと、寝所に向かった。

 残った透琳は、ランスの発言をもう一度思い返していた。
 今一番必要なのは、魔人を撃退したことで高まった士気を維持することだ。その意味では、ランスは完璧すぎるほどに役目を果した。
 強気の発言は人に勇気を与える。発言したのが実績を持つ者であれば尚更だ。
 その言葉に意味を与えることこそ、透琳達の仕事だ。実際のところ、ランスの大言は完全な嘘ではない。起死回生の策ではなくとも、計略は既に動きつつある。

 ――しかし。
 透琳はもう一度ランスが去っていった襖を見た。
 あるいは、という期待感はあった。
 お世辞にも理知的な男とは言い難いが、幾多の苦境を潜り抜けてきたのは確かだ。自分では思いもよらぬ類の秘策を、打ち出してくるかもしれない。
 彰炎と義風が、示し合わせた訳でもないのに沈黙を保っていたのは、自分と同じように、ランスの態度に何かを感じたからかもしれない。

「真田将軍」
 マリスの声で、透琳はとりとめもない思考を打ち切る。
「お考え事ですか」
 透琳はマリスの方に振り向くと、鋭い視線でマリスを捉えた。
 数秒の間考え込むそぶりを見せてから、ゆっくりと頷く。
「そうですね。おそらく、貴女と同じことを」
 マリスは一瞬間を置くと、薄く笑って返答する。
「ご冗談を。将軍のお考えなど、私では及びもつきませんわ」
「そうですかな?」
 透琳はマリスを正面から見据えた。その鋭い視線にも、マリスは動じることなく平然としている。
 マリスの微笑からは、何ら感情を読み取ることはできない。
「(……やはり)」
 この女性は未だ底を見せていないと、透琳はほとんど確信していた。確かに先の徳川戦や織田戦でのマリスの手腕は確かに見事なものだったが、それでもどこか、余裕を残しているように感じられる。
 マリスの主戦場は、どうやら戦ではないようだ。

 透琳はしばらくの間マリスを見つめていたが、やがて緊張を崩して言った。
「ともあれ、あなたが味方であってよかったと思います」
「……ええ。それについては、同感ですね」
 それ以上言葉を交わす事はなく、二人は広間を後にした。今のところ透琳とマリスは共通の目的は重なっていたが、決して譲れぬ立場の違いがあることもまた確かだった。


「うーん」
 シィルに夜食を作らせている間、ランスは珍しく考えにふけっていた。
 夜の運動前に考えごとをするのは、ランスにとっては随分と久しぶりのことだった。恐らくリーザス解放戦争以来だ。

 二人の軍師の推察どおり、ランスには特に策など無かった。自分に歯向かってくる男に対し、つい策があると吹いてしまっただけなのだ。
 武田家臣団を前にして『つい』であれほどの大言壮語を吐ける人物は、JAPAN広しといえどランスしかいないだろう。

 実際のところ、状況は厳しい。
 信長を倒せばこの戦は終わる。それは確かだが、尾張に攻め込むとなると城攻めだ。二千で城攻め。どう考えても無茶だ。
 だいいち尾張は遠い、兵站の問題もある。徳川領の三河か、織田領のまむし油田を制圧しなければ、攻め込むのは不可能だ。
 やはり奇策が必要だ。――そういえば、とランスは考える。
 城攻めといえば、リーザス城攻略のあの作戦がまた使えるだろうか?
 いや無理だろう。魔人が人間の降伏を受け入れるわけがない。
「じゃ、俺様がばばっと潜入して……駄目だな」
 魔人を倒すだけならともかく、その後がいけない。敵陣真っ只中に突っ込んだランスが、逃げることができなくなる。
 負けるかも、という思考がない辺りがランスである。
 結局、正攻法では兵力がとても足りない。奇策は通用しない。行き詰まりだ。ランスはばふんと頭を枕に叩きつけ、考えるのをやめた。
「やめだ、やめ。一発やって寝よう。シィル! ……はいないのか」
 叫んだあとに、飯場に行かせてしまったことを思い出して、ランスは不機嫌そうにつぶやいた。
 大陸の食べ物であるうはあんを申し付けたのだが、あれは作るのに時間がかかるはずだ。ランスは仕方なく立ち上がり、のそりと部屋を出て行った。

 飯場までの道は屋外にある。さすがに通路には屋根があり、石畳が整備されているが、夜になるとひとの気配は無い。
 その途中、石畳の隙間に、妙に小奇麗な木製の看板が立っていた。つい先ほど設置されたもののようだ。
「ん?」
 ランスが看板を見ると、そこには綺麗な字でこう書かれていた。
『美女 こっち →』
 つられて右を見ると、ふくろうの鳴く夜の森がある。
 ランスはしばらくその文言をじっと見つめていたが、やがて何を思ったか、馬鹿笑いをしながら森の中に踏み込んでいった。
 
 そんなランスを見つめる視線があった。視線の主は、森の木の陰に潜む女。鈴女である。
「(……ほんとに来たでござる)」
 鈴女はずんずんと森の中に踏み込んでくるランスを見て、口笛を吹くしぐさを見せた。
 武田家の異人はものすごい好色漢だという噂を聞き罠を打ってみたのだが、まさかあんなものに引っかかるとは思わなかった。あからさまに挑発して、警告を促すだけのつもりだったのだが。
 とはいえ、色々と面倒がなくなったのは確かだ。
 鈴女はランスが近寄ってきたのを確認すると、木の陰からゆらりと姿を現した。
「お。おー、グッドだ!」
 ランスは目の色を変える。飯場からの僅かな明かりの中でもはっきりとわかる、美女だったからだ。
 整った輪郭の真ん中上で、くりくりとした瞳が無邪気な光を放っていた。ぴょんと跳ねた髪の毛が愛嬌を、大きく開けた胸元が匂い立つような色気を振りまいていた。
「あんたがランスでござるな」
「うむ。あの看板は君のしわざだな。ということは俺様のファンだな。がはははは。今なら大サービスで処女を無料で貰ってやるぞ」
 まだ鈴女に疑いをもっていないようだ。鈴女は目を丸くして驚いた。驚異的な馬鹿だ。格好を見れば、自分がくのいちだということぐらいは推測できるだろうに。
「んー。残念ながら、鈴女は処女ではないでござるが」
「ほう、鈴女ちゃんというのか。では今の恋人に満足できないというわけか。がはははは、俺様がめくるめく世界を教えてやるわ」
「面白そうでござるな。でも」
 鈴女は着物の隙間からゆっくりと小刀を取り出した。
 暗殺のため、ではない。単なる暗殺ならこんな直接的極まりない手段は取らない。
「お?」
 警戒は強めたものの、流石に凄腕の戦士なだけのことはあり、ランスは慌てなかった。小刀を見てあごに手を当てて、何事か考え込む。
 やがてランスは納得した様子でにやりと笑い、カオスを抜いた。カオスの刀身を見て、鈴女の目が一瞬、鋭く細められる。
 ランスは楽しそうに言った。
「なるほど。勝てばやらせてくれるということだな?」
 当たらずとも遠からず。誤解を解いたらかえってややこしくなりそうだったので、鈴女は適当に答えた。
「おっけーでござる」
「がははははは。では、どこからでもかかってこい」
「ふーん?」
 たいした自信だ。それなりに腕が立つだろうということは、魔人に血を流させたことから想像が付くが。
 実際のところ、どの程度か。がぜん、興味がわいてくる。
「じゃ、遠慮なく」
 鈴女はそう呟くと、ふわりと後方に跳んだ。
 同時に鈴女の合わせた手の平の中で、きらりと何かが光る。
 直後。
 鈴女の手元から三本のくないが飛び出て、ランスを襲った。
 頭。首。心臓。急所を貫くべく、三筋の閃光が奔った。
「お!」
 いきなりの攻撃に、しかしランスは何とか反応した。
 頭狙いを剣で弾き、残りを体の向きを変えることで避ける。
「がははは、この程度が通じると――っていない!?」
 ランスがもう一度正面に振り向くと、既に鈴女はいなかった。
 きょろきょろと首を回し、鈴女の姿を探す。が、いない。どこへ消えたのか。
 
「(いただきでござる)」
 鈴女はこっそりと呟いた。
 ランスの死角を突いて、一瞬で背後に回っていたのだ。背後からの攻撃は武士にあるまじき卑怯だが、後ろを取られる方が悪いのだ。
 右手には小刀、ランスの首まではたった三歩の距離。期待が外れたかな、と少々残念に思いつつ、鈴女は地を蹴った。
 
 ――殺すつもりはなかった。
 鈴女には目的があった。ランスが魔人を斬る剣の持ち手として、相応しいかどうかを試すという目的が。
 もし相応しければ、協力を要請する。相応しくなければ、剣だけ貰ってあとは放置する。ランスは仮にも武田の大将軍である。殺しては、信長の対抗勢力の力がそがれることになってしまう。

 それが仇となった。鈴女が飛びかかろうとした瞬間、僅かな気配を頼りにランスが振り向く。
「そこだー!」
 ランスはカオスを放り出し、両腕を鈴女に伸ばした。気付かれたことに鈴女は驚く。だが攻撃は止めない。ランスより自分の方が速いのだから。ランスに小刀は止められない。
 予測どおり、ランスが鈴女に触れる前に、鈴女はランスの首筋にぴたりと小刀を当てた。
 勝った、と確信した。
 だが。
 ランスの両腕は、それでも止まることなく、鈴女に向かった。
「え?」
「おっぱいターッチ!」
 ランスの手が鈴女の豊満な胸に届く。
 ぷにょり。と、柔らかい感触が、ランスの両手に充満した。
 ランスは首に小刀を突き付けられ、鈴女は胸を揉まれていた。

 鈴女は自分の胸元を呆然と見つめていた。なぜ止まらないのだ。
「てい」
「あ」
 一瞬の隙をついて、ランスが左手で鈴女の小刀を叩き落とす。その間も、右手は胸を揉みしだいたままだ。
 ランスはその感触に頬を緩めつつ、勝利宣言をした。
「ほほほ、俺様の勝ちだな」
「負け……でござるか」
「うむ。もみもみ。いい乳だー」
 先に首に刃を突きつけたのは鈴女だが、殺意が無いことを見抜かれてしまった時点で、確かに勝負は決していた。
「殺す気がないと、わかってたでござるか?」
「だいたいはな」
 偽の殺気を出さなかったのは、鈴女の失策だった。
 それでもまだ、腑に落ちないところはある。
「でも、途中で気が変わったかもしれないでござる」
「大丈夫だ、美女は全員俺様に犯される運命だから、俺様を殺せるわけがない。そんなことより、君のおっぱいの方が重要だ。おお、なんと柔らかい」
 鼻の下を伸ばしつつ、ランスが答えた。
 鈴女はランスのセクハラを特に気にした様子もなく、感じ入ったような口調で言った。
「つまり刺客が美女だと、ランスは殺されないのでござるか」
「うむ」
「面白い考え方でござるなー」
 わりと本心で、鈴女は呟いた。これまで会ってきたどんな人間とも違う種類の男だ。途方も無いエロ大王だ。
「ではそろそろ」
 鈴女の胸の感触で本気モードに入りかけたらしい。ランスが、かちゃかちゃとベルトを外そうとする。
 と、その時。
 ごろろろろろー。ぶち、ごろごろ。
 変な音が周囲に響いた。どこか間の抜けた効果音だった。
 奇妙に思ったランスが振り向くと、森の奥深くから変な物体がランス達に向かってきていた。どこが変かといえば、何かもうあらゆる意味で変な物体だった。
 物体は車輪で小枝を踏みつつ鈴女のそばまで近寄ると、よく通る声で言った。
「ここか、鈴女」
「めだま?」
 鈴女ではなくランスが返事をする。物体を見て思わずそう呟いた。
 本当に目玉だった。ランスの胴体ほどもあろうかというくりくりとした大きな目玉が、声を出して喋っていた。
 顔と車輪の付いた乗り物の上に立ち、小さな武者鎧を身に着けている。右手には政宗の容貌とは不釣合いに見事な日本刀を握っていた。
 流石に気をそがれたらしく、ランスは鈴女の胸を揉むのを一瞬止めた。
 その隙を突いて、鈴女は身をひるがえしランスとの距離を取った。
「探したぞ」
「ういうい。ちょっと予定が狂ったでござる」
 ランスが鈴女の誘導に予定より早く乗ってしまったせいだ。当初は政宗自身が相手をする手筈だった。
「どうだ、感触は」
 政宗が問うと、鈴女は人差し指を下唇に当て視線を天に向けた。
 しばらく考え込むようなしぐさを見せていたが、やがて口もとを僅かに吊り上げ、声を弾ませて言った。
「おもしろいでござる」
 僅か五文字の評価だが、それは鈴女にとって最大級のほめ言葉である。
「……。そうか」
 目玉は納得した様子で、鈴女からランスに視線をずらした。
「武田の大将軍、ランスだな」
 なんだこの変な物体は、と黙りこんでいるランスに対し、目玉は更に言葉を続ける。
「無礼をした、すまない。想いを託すべき男か、見極めたかった」
 目玉はぺこりと頭、というか目玉を下げた。
 ランスは目を丸くしていた。普段なら『えっちを邪魔するな』と問い詰めるところだったが、この目玉の異様な風貌と、容姿に似合わぬ真面目な言動に驚いており、それどころではなかった。
「いや、つーか、なんなんだお前は」
「俺の名は」
 物体はランスをじっと見つめて、堂々と名乗った。
「独眼流政宗。妖怪王だ」
「妖怪王?」
「そうだ」
 政宗はうなずいた。そして、一歩進み出て言った。
「ランス。頼みがある。協力してほしい」

 こうして三人は出会いを果たした。
 この出会いを境に、ランスのうそぶいた大反抗作戦は、急速に動き出していくのだった。
 
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