死闘が展開されていた。
 謙信と政宗。人と妖怪、それぞれの間でJAPAN最強を謳われる二人を相手にして、信長は壮絶な戦いを繰り広げていた。交互かつ不規則に繰り出される必殺の刃をさばき、それどころか隙を見て反撃の太刀を繰り出す。
「く……!」
 政宗達は、挑戦者だった。二人を前に、信長はなお互角以上の優勢を保っている。信長が剣を振るうごとに、世界が震える。
 その剣は、例え直撃を避けたとしても、余波の影響を逃れるために後退せざるを得なかった。それほどまでに、信長の剣技は人間の域を遥かに超えて、凄まじいものだった。
「阿呆め――死ぬがよい!」
 二人の攻撃の途切れ目に、信長は横に剣を振るう。政宗を狙ったその刃は、何の魔力も込められていないにもかかわらず、真紅のもやに包まれていた。空気との摩擦だけで剣の周囲に、ごう、と炎が燃え上がっていた。
 反撃を受けた政宗は、なんとかそれを受け止め、後退した。
 入れ替わりで謙信が信長の前に立ちはだかった。 
「女、死にたいか!」
「私は……死ねぬ。まだ、やるべきことがある」
 静かに答えて、謙信は動いた。相手は魔人。だが謙信もまた、JAPANにその人ありと讃えられる軍神である。謙信は全力を注ぎ込んで信長の剣を受け流すと、鋭くステップを踏み、上段からの刃を信長に叩き込んだ。
 人間の常識を超えた速度だったが、信長は軽くそれを受け止めた。
 刃と刃の衝突点から、白色の火花が飛んだ。
「まだだ!」
 謙信はくるりと回った。体の動きにあわせて、刃を一瞬の間に下方で返し、振り上げる。信長は背をそらし、それをかわす。だが軍神の剣技はそれだけでは終らない。謙信は更に上体を捻ると、もう一度、先程より速度を増した一撃を斜め上から打ち込んだ。
 一際大きな金属音が、大広間に響いた。
「ぬうっ!」
 刀を受け止めた信長の体勢が崩れる。左足が床板に陥没した。好機と見て、謙信は更なる追撃のため大きく踏み込んだ。そこで、信長がにやりと笑った。信長は左手を謙信に向けると、人間のものではない言葉を発した。
「っ!?」
 罠だ。謙信が認識したのと同時に、信長の手の平からごうと火炎が飛び出た。
 その火炎は放たれると同時に人間の胴体ほどの大きさに増幅され、謙信を襲った。
「くうっ!」
 予想外の攻撃をとっさによけるも、謙信は体勢を大きく崩す。
 信長は一気に踏み込み、そして横薙ぎの一撃を叩き込もうとした。
「させん!」
 それを阻止すべく、政宗が信長の前に立ちはだかった。
「妖怪! 貴様からかっ!」
 信長は必殺の一撃を右手の剣から繰り出した。政宗はそれをまともに受け止める。
 謙信を守るため、避けることはできなかった。
「くううっ!」
 強烈そのものの衝撃。魔人の刃をまともに受け、政宗は吹っ飛んだ。
「死ねい!」
 とどめを刺すべく、信長は謙信に対して放ったのと同じ火球を、政宗に投げた。
 が、火球は政宗の直前でその勢いを落とす。火は政宗の鎧を軽く焼くにとどまった。見れば政宗と信長をさえぎるようにして、青く薄い膜のようなものが、ゆらゆらと揺れていた。お町の張った、防御結界だった。
「梵天丸に手は出させん!」
「……! 邪魔だっ!」
 信長は忌まわしげに舌打ちをすると、左手をブンと薙いだ。妖しく脈動する赤紫色の波動が左手から飛び、お町の作り出した結界に取り付く。すると結界は、紙が燃え尽きるかのごとくあっという間に溶かされ、消滅した。
「覚悟!」
「ににん!」
 結界の消滅と同時に、透琳と鈴女の飛び道具が放たれた。信長の顔面を目掛けて、矢と手裏剣が飛来する。信長はそれを見てから、首を軽く曲げ二つの閃光を避けた。非人間的な動体視力のなせる、神技だった。
 ただ、政宗が体勢を立て直すには十分な隙だった。政宗はふたたび信長の前に立ちはだかり、信長と剣を合わせた。受け止められる。つばぜり合いの形となる。しめた、と信長は口を吊り上げ哂った。魔人に力比べで勝てるものが、この世にいるはずがないのだ。
 しかし――
「――小十郎!」
 政宗が、引いた。おけらカー小十郎の機動性を生かして、踏ん張ったままに後退するという、型にない引き方だった。信長と政宗の間合いが開いた。
 そこで、政宗の背後から飛び込んでくる男がいた。
 緑のマントをはためかせ、手に禍々しい魔剣を握る、武田軍の総大将。
「ランス! 今だ!」
 シィルとマリスの治療により、回復したランスだった。
「どおおりゃああ! ラーーンスアターック!」
 ランスの必殺技が、信長に炸裂する。回復したランスのその一撃は、謙信と政宗の連激を遥かに超える、壮絶な威力を生み出していた。
 カオスの刀身に収まりきらぬほどに膨れ上がった、暴力的な紫色のオーラの全てが集束し、信長に叩き込まれた。天守閣が、激震に見舞われた。
「ぬおおおおっ!」
 ランスの一撃は、信長を構えたガードごと吹っ飛ばした。
 がりがりと床板を跳ね上げつつ、信長は激しく後退した。
「ぬうっ! ランス、貴っ様ぁ!」
 数回床に叩きつけられたところで、信長は受身の態勢を取っていた。そして、恨みの声を思わず発する。右腕にあけび色の裂傷が走っていた。それを見て、信長は思い出したようにズキンと痛みを感じた。
「ばかなっ!」
 信長は驚愕した。痛覚がまともに働くことなど、絶対にあってはならないことだった。
「がはははは! 形勢逆転だー!」
「まだまだぁっ!」
 踊りかかるように信長に飛び掛ろうとするランスに向け、信長はとっさに炎の波を放つ。
「むう!」
「はあっ!」
 お町とマリスが二重の結界を張り、その威力を弱めた。それでも貫通した炎による傷は、シィルが即座に回復させていく。
 信長は眉をゆがめつつ、連続で炎を放とうとする。しかし、忍者の手裏剣と軍師の矢に阻まれた。そして、その間にもう一度接近戦に持ち込まれた。
 ランスと政宗と謙信。今度は、信長に分が悪い勝負だった。

「――な、ぜ」
 なぜ。なぜ勝てぬのか。
 三人と刃を交える信長。その思考に、焦りが浮かんでいた。自分が押されていることを、信長は戦士の本能で認めていた。カオスの一撃を受けた腕の傷口は、癒えるどころか、動くごとにますます悪化していく。動くごとに状況が不利になっていく。魔人殺しの剣の威力を、信長はまざまざと痛感した。
 更なる問題は、自分がいまだ決定打を与えられていないことだ。一撃でもまともに当てれば即死させる自信はあるものの、その一撃を当てるのが至難の技だ。信長と渡り合う三人の戦士は、全員が驚嘆すべき実力の持ち主だった。
 一対一、いや二対一ならまだしも、三人を同時にしては、反撃の機会は相当に限られる。
 そして、なによりも。これ以上カオスによる攻撃を受け続ければ、反撃どころではなくなる。
 待っているのは――敗北だけだ。

「……く」
 だが信長は、自分にまだ選択肢が残されていることを知っていた。
 まだ、完全ではない。残り一個の瓢箪。それを取り戻し、そして体を完全に馴染ませれば。たとえ魔剣の剣士達が相手であろうと、本来の力であれば、圧倒できるはずだ。
 それは半ば願望に近い憶測だったが、追い詰められた信長の行動理由としては十分だった。信長はまた、それを可能とさせる、切り札――というには、あまりに頼りないが――を、保有していた。
 信長は決断した。

「ガアアアアァッ!」
 信長が、動いた。余裕を捨てて、全力で剣を横に振るう。その一撃を避けて、ランス達三人が、同時に信長と間合いを取った。戦闘に束の間の空白が訪れていた。
「でえーい、しぶとい! 一気に行くぞー!」
「おお!」
「了解です!」
 更なる攻撃を加えようとするランス達。それに対して、信長は表情を消して右手の剣をゆっくりと上げた。まだ距離があるにも関わらず、信長は剣を両手に握り、手元に気を集中させた。赤黒いオーラが信長の全身から立ち上り、剣に注ぎ込まれていった。
「させるかっ!」
「はああっ!」
 政宗と謙信が、それを妨害すべく飛び込んだ。何をしようとしているかはわからないが、いずれにせよ止めなければならない。
 しかし――飛び込んだ二人の頭上で、ことりと、音がした。
 それと同時に、小さな物体が、天井からころんと落ちてきた。
「っ!?」
 謙信と政宗の頭に、それらが当たった。二人はそれに気付いてはいたものの、避けることをしなかった。その物体が何の殺意も持っていなかったことが、逆に災いしていた。二人の勢いが止まった。二人はがくんと体を落とした。抵抗し難い脱力感が、二人の全身を襲っていた。
「な……!」
「毒、かっ!」
 二人のそばには、小さなわらじが二足、転がっていた。
 政宗が見上げると、小さな猿が天井板の隙間からこちらを覗いていた。
 信長の使徒、籐吉郎であった。
「梵天丸! ……畜生ごときがっ!」
 激昂したお町が、腕を大きく振って、雷を撃ち放った。
「キキーっ!」
 いかに魔人の僕とはいえ、所詮は猿である。お町の強烈な雷撃を受けた籐吉郎は、天井板ごと瓦を突き抜け、空高く吹っ飛んでいった。が、藤吉郎は、信長にとっては充分な隙を作り出していた。
「でかした、猿!」
 言うと、信長は両手で剣を握り締め、溜め込んだ力を解放した。全力で斬撃を放った。政宗や謙信に対してではなく、この大広間そのものに対しての斬撃だった。
 魔人の力の全てが注ぎ込まれたその刃は、世界の法則そのものを切り裂き、宙に黒い歪曲した空間を作り出した。歪曲空間から幾重もの衝撃波が大広間に撒き散らされた。
 お町の雷撃と、その後の激闘でほとんど崩れかけていた天守閣である。脆くなった天守閣は、その衝撃波に耐え切れず崩壊を始めた。ランス達の耳に、天井と床と壁から、木が何本も折れていく音が伝わってきた。
「おわあーっ!」
「そこで、死んでいろ!」
 慌てるランス達をよそに、信長は窓の外に飛び出た。
 と同時に左手を振り、慌てて追おうとするランス達の前に炎の壁を作り出す。
 それを合図として、天井が崩れた。ランスの頭上に梁の残骸が迫った。シィルとマリスが、防御魔法の詠唱をしている。だが、間に合わない。崩壊はすぐに臨界点に達し、屋根全体が崩れ落ちた。


 信長は窓から飛び立つと、中庭に着地した。憎悪に瞳を燃え上がらせつつ、信長は中庭を駆けた。数人の武田兵がたむろしているが、信長は彼らを一撃のもとに消し去っていった。多少傷を負ったとはいえ、一般兵など魔人にとってはものの数ではなかった。
「く……ふん……!」
 だが今の信長に、日本人を殺した愉悦を味わう余裕は無かった。
 信長は奥歯を噛み締めつつ、走り続けた。
「……殺す……殺す! 全て殺す、殺してやる……!」
 自分に言い聞かせるように呟きつつ、信長は駆け続ける。その途中で、三十人ほどの集団に出くわした。集団は信長を見ると一斉に身構え、槍を信長に向けた。中庭にいた者達と同じように、信長はその一団をなぎ払おうとして――そして、止まった。
 信長の視線は、その集団に立つ小さな少女に向かっていた。香姫だった。

 ――世界の全てが、停止していた。
 少なくとも香姫にはそのように感じられた。香姫は呆然と呟いた。
「……兄上……?」
「――!」
 香姫の声に弾かれたように、信長は動き出す。そのときには、信長の瞳に赤い光が再び宿っていた。ただ、信長が一瞬見せた慈愛の光に満ちた瞳は、香姫の心に強く焼きついていた。覚悟を決めていたはずの香姫の心は、大きく揺さぶられていた。
 懐かしい思い出がぶわっと押し寄せて、香姫は身動きが取れなくなっていた。


 そんな香をよそに、信長は進路を変えてふたたび走り出そうとしていた。不可解な感情、理解できぬ心が、一瞬だけ信長を占有した。そのことについての疑問が、信長の頭に渦巻いていた。
 感情の原因は理解できても、納得ができなかった。
「……っ!?」
 だが、思考はすぐさま中断された。殺意。背中に迫る、死の予感があった。
 信長は本能のままにとっさに振り向いた。するとぶんぶんと回る紫色の塊が、猛烈な勢いで信長に迫っていた。その物体の正体に気が付いて、信長は驚愕に表情をゆがめた。見まごうはずもなく、魔剣カオスだった。


 ――それは、僅か数秒前のことだった。
 シィルとマリスの魔法により、一人瓦礫の影響を受けずにいたランスは、崩れた天守閣を最初に抜け出していた。そして信長を見つける。だが遅かった。信長はすでに眼下の中庭に降り立ち、走り出そうとしていた。
『相棒、追え! 飛び下りろ!』
「できるか馬鹿もーん!」
 カオスに反論するランス。天守閣から中庭までは、はっきり言って人間が落ちて無事でいられる高さではない。足場を選べば降りることは難しくなかろうが、悠長にそんなことをしている暇はあるまい。
『無理でもやれ! ここで逃がしてどうするんじゃー!』
「ええーい、うるさい! そんなに言うならっ」
 ランスは大きくカオスを振りかぶった。
『……え』
 ランスの意図に気づき、カオスが表情を凍らせた。
『な、ちょ、ばか、やめっ』
「てめえが行けーーーー!」
『またかーーーーー!』
 ランスは全力で腕を振り、そして手を離した。


 襲来する魔剣カオス。その黒い刃をまともに受ければ命は無い。そのことを、信長は先ほどの戦いで思い知っていた。信長はとっさに身を引いた。が、僅かの差で避けきれない。カオスの刀身がざくりと信長の腕を傷つけた。
「ぐ……!」
 ただ、それだけだった。カオスは信長の胴鎧をかすめて通り過ぎ、がぁぁん、と、小気味よい音を立てて地面に激突した。信長のすぐ横の土に、カオスの刀身が中ほどまで突き刺さっていた。
「……!」
 信長は痛みを忘れた。口尻を吊り上げ、歓喜の表情を浮かべた。
 彼を追い込んだ元凶とも言える忌まわしい剣が、いまや手元にあった。
『だからやめろと言ったんじゃー!』
「ふはははは、馬鹿めっ! これさえあれば!」
 酷薄な笑みを浮かべつつ、信長は右腕を叫びを上げるカオスに伸ばした。
 瞬間。
 鈍い痛みが、信長の右肩を襲った。右腕が肩ごとぐん、と後方に押し付けられた。
「っ!」
 一本の矢が、信長の腕を貫いて後方にせり出していた。


 天守閣の崩壊から、ランスの次に抜け出したのは透琳だった。信長から距離を取っていたことが、逆に幸いしていた。透琳は、抜け出すやいなや状況を把握し、最速で動いた。
 即座に一の矢を放った透琳は、二の矢を矢筒から取り出しつつ、残骸に足をかけて体を固定した。
 瓦礫の中に立ち、透琳は一の矢の軌道をもとに、狙いに修正を加え、放った。
 矢は吸い込まれるような軌道を辿り、信長の左肩をあやまたずざくりと貫いた。

 ――信玄の残した意地と、昌景が示した誇りに賭けて。自分の双肩にかかる重責を、集中力へと転化させ、両の手に集束させる。例えもう片方の眼球を無くそうと、外す気は全くしなかった。信念は、透琳に託されたのだから。

 透琳は矢を取り、三の矢を放った。信長の腹を貫いた。

 ――昌景の仇を討つ機会を自分に託してくれた、二人の将軍の信頼に応えるために。そして、重責を引き受け死地に残った主君への敬愛を示すために。相手が魔人であろうとも、武田の武は通用すると、証明しなければならなかった。

 四の矢。五の矢。透琳の矢は信長の体の急所を次々とえぐっていった。

 ――最後に、己自身の想いを。
 幾百万と繰り返してきた弓の修練は、いまこの時のためにあったと確信した。かつて信玄と共に見たおぼろげな理想の実現に向け、己の人生の全てを賭けて、成し得るすべてを成し遂げる、その誓いを果すために。

 透琳は三本の矢を取り出して、同時に放った。
 想いを乗せた矢が、信長の額と胸と喉を、同時に貫いた。


「ご……あああっ……!」
 急所に何本もの矢を受けつつ、信長はそれでも生きていた。息も絶え絶えな様子で、全身から血を噴出している。目じりにまで血をにじませつつ、それでも信長はなんとかしてカオスを手に取ろうと、一歩踏み込んだ。
「……これ……さえ……っ!」
 しかし、柄に手をかけようとした直前。別の手が、カオスをひょいと掴んだ。
 信長は顔を上げ、その者を見た。勝ち誇った笑みを浮かべたランスだった。
「ふん。手間取らせやがって」
 ランスは得意げに笑い、地面をカオスでとんとんと叩くと、信長を見下して言った。
「これは俺様のだ。欲しいか? んー?」
『心の友は、儂をフリスビーか何かと勘違いしとる……』
「結果オーライだ。俺様のすばらしい機転にケチを付けるな」
 ぼやくカオスと、軽口を叩き合うランス。その様を見て、信長は痛みを忘れて激昂した。地上の支配者の眷属、魔人たる自分が、こんな剣とこんな男に見下されることなど――まして敗れ去ることなど、絶対に認められなかった。
 信長は力の限り叫んだ。
「ランス! 貴様が、貴様が! 貴様さえいなければあぁっ!」
「うるさい、もう死ね。ランスアタタターック!」
 ランスの必殺技が、無防備な信長に対し何の容赦もなく繰り出された。
 膨れ上がった気がカオスの刃に乗って、信長の頭上に炸裂し、爆発した。
 地が震え、天が嘶いた。断末魔の悲鳴を残して、信長はその身を失った。


 もうもうと上がる土煙が収まった後に、奇妙に濁った宝石が、ランスの足元にころりと転がった。ランスはかがみこんで宝石をひょいと拾い上げると、腰に拳を当てて、高らかに叫んだ。
「がはははははは! 大・勝・利ー!」
 ランスが叫ぶと同時に、ランスの前方から大きな歓声が上がった。武田の攻城軍の本体が、そこに押し寄せていた。
 決着の瞬間を垣間見た兵達の喜びの声が、そこかしこから上がった。この戦乱の勝利と、そして人間の勝利が決まった光景に、全員が酔いしれていた。
 ただ、一人を除いて。
「――あに、うえ?」
 香姫が呟いた。ランスの手に納まった宝石を、香姫は静かに見つめ続けていた。
 
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