「あれ」
ある晴れた朝のこと。香が朝日を浴びるため城の中庭に出ると、既に先客がいた。
真っ白な肌着の上に袴のような織物を羽織っている、長い髪の女性。立派な楓の木の下で、目をつむって、足を肩幅に広げて立っている。
そしてその手にはなぜか木刀を携えていた。
「――」
女性の前に、木から一枚の葉が舞い落ちた。
「――!」
瞬間。女性はくるりと回り、そして木刀を振り上げる。
「!?」
香が見えたのはそこまでだった。
凄まじい風切り音と共に、女性の周囲で嵐が吹き荒れていた。
傍目には竜巻が発生しているようにしか見えなかった。
それは実際、竜巻なのだ。風ではなく、木刀の残像、軌跡の連続で作り上げられた竜巻。
突風が遅れて香の元に来た。香は思わず顔を手で覆った。
数秒間竜巻が吹き荒れた後、風がようやく止まった。
嵐に巻き込まれた木の葉は、正確に五十七つの破片へと分割されていた。
それは文字通りの神業だ。非人間的な動体視力。一ミリのズレすら許さぬ正確で安定した型、そして木刀の切っ先で葉を切るほどの剣速が必要なのだ。
こんな離れ業が可能な人間は、JAPAN広しといえどたった一人しかいない。軍神と称えられる国一の剣豪にして、元・上杉家国主。上杉謙信である。
竜巻がやんだのを見てから、香はそっと顔から手を離した。
「(うわあー)」
嘆息した。実際のところ、香は謙信の剣技をよく理解できていない。
葉っぱが分割されたことなどここからではとても見えない。ただその常人離れした動きは、素人目にもものすごいものだった。
木刀で竜巻を発生させる人間など、聞いたこともなかった。
謙信は木刀を下げ、緊張を解いていた。そして目を開ける。
驚いたことに、謙信はまぶたを閉じたまま先の剣舞を繰り出していたのだった。
「?」
そこでようやく謙信は、中庭に自分以外の人間がいることに気が付いた。
謙信はしっかりとした足取りで香に近寄ると、問いかけた。
「すまぬ。驚かせたか」
「え……あ、いえ、あの、別にっ」
香はうまく返事ができない。
謙信の鍛錬(にしては、美しすぎたが)に見とれていたせいだった。
戦国最強を誇る武田家は、その名の通り武勇を尊ぶ家である。
香はいままで何人も強者と呼ばれるものの武技を見てきた。
その中でも最強を誇るのは、武芸大会で十五連覇を続けている馬場彰炎。その彰炎と比べてさえ、謙信が先の訓練で見せた剣舞は、別次元に感じられた。
それほど強く、美しく、力強い脈動が、動きの一つ一つから伝わってきた。
「なんというか、その……すごかったので」
「……?」
「謙信様が軍神と呼ばれる訳が、わかった気がします」
謙信はすこし首を捻る。
香の言葉があまり理解できなかったようだ。
そのまま二人は、お互いの顔を黙ってじっと見つめていた。
身長が違うので香が謙信を見上げる形となっている。
「(わー)」
香はまた心の中でため息をついていた。美人だ。それもすごい美人だ。これまで見たこともないほど美しい人だ。思わず同じ表現を繰り返してしまうほどだ。
わたしとは大違いだ、と香は思う。自分が不細工だとは思っていない。むしろ美少女の部類に入るのかなあ? などと内心密かに考えていたりする。だが謙信の美しさは質が違った。
可愛いと美しいの違いだけではない。
謙信には、女性だけが持つ凛々しさがある。神々しいと言えるほどの美貌がある。上杉軍の兵隊が女性ばかりになる理由を、香はなんとなく理解していた。
考えふける香に、謙信が声をかけてきた。
「ところで、あなたの名をお聞きしてよいか」
「……あ! すいません」
香はぺこんと謝り非礼を詫びると、素直に自分の名前を告げた。
隠す必要はなかった。謙信は武田家にとって重要人物なのだ。少なくとも信玄は、謙信を客として扱え、という命令を出している。
「そうか」
謙信は頷くと、香とは対照的に流れるような動作で頭を下げた。
肩にかかっていた長い髪が、ぶわっと前に投げ出された。とんでもなく綺麗でさらさらとした髪だ。色がまたすごい。鴉の濡れ羽色というものが本当に存在したことを、香は初めて知った。
「礼を言いたい」
「え、ええっ?」
慌てる。軍神にいきなり頭を下げられて慌てない人はいないだろう。それも礼を言われる理由がさっぱりわからないとあれば、なおさらだ。
「あなたの兄上、信玄公には、とても世話になっている」
謙信は本音でそう言った。
謙信の現在の立場は、実質的には、武田家の客将であった。
名目上は上杉従属の証としての人質ということになっている。しかし城内であれば自由に動く許可をもらっているし、また、行動に制限があるわけではない。
それだけではない。信玄は県政の政治に監視を付け、県政が女性武将や民を虐げようとするのを防いでいる。謙信は愛からそれを聞いていた。愛が言うなら確実だろう。
「そうですかっ。兄上のすごさが、わかっていただけたということですねっ」
香は嬉しそうに言った。
確かに謙信は敵国の長だったが、敵味方からその高潔さと武勇を称えられた大人物でもある。その謙信が兄に一目置くというのは、政治的にも個人的にも、とても好ましいことのはずだ。
「……む」
しかし、謙信は返答に詰まる。
あのどこまでも人当たりの良さそうな武田信玄は、その実全く真意を明かしていないように、謙信には感じられた。その言葉と行動に、嘘はないだろうが。それにしても、隠しているものがあまりに多過ぎるように思える。……ただの勘でしかないが。
「いや」
「?」
「なんでもない」
そんなもやもやを、今打ち明けても仕方のないことだ。
謙信は思考を止めた。愛に相談したときにも、言われたはずだ。たしか『そんなことはどうでもいーから、あんたはとりあえず自分の問題だけ考えときなさい』ということだ。
「そういえば……」
話題を変えようとする。なにか、気になること。聞きたいこと。自分の問題のことで。
そんな連想ではたった一人の男のことしか、頭に浮ばなかった。
「香殿はら……ランス殿のことを、よくご存知と聞くが」
「ええ゛!?」
香の声に、驚きのあまり妙な濁点が混じる。それほど衝撃的で想定外で不本意でありえない評判だった。いったいどこの誰がそんな中傷を。
「違うのか? 信玄公から聞いたのだが」
「(あ、あにうえーっ!?)」
声にならぬ悲鳴が香の心にこだまする。
懸命な努力を払うことで、なんとか顔をひくひくとゆがめるだけで済ませた。
「(ううー)」
正直に本当のことを話すわけにはいかない。それでは兄の面子が丸つぶれだ。
兄の面子も謙信の心も傷つけぬよう、できるだけ無難な返事を返そうと、香はうんうんとうなる。
涙ぐましい努力であった。
「確かに、そう表現するにもやぶさかではない程度の一般的な親しさがまったくないとは言えないこともなきにしもあらずかと……」
「ふむ……そうか、やはり親しいのだな」
謙信があっさりと言った。香の努力は無に帰した。
「(理解が早すぎますー!)」
香の苦悩をよそにおいて、謙信は返答を聞くと、手を腰の前で組み視線をせわしなく左右に動かし始めた。なにごとか躊躇しているようだ。
「……そ、それで、だ」
意を決したかのように、きっと唇をかんで切り出す。
「も、もしよければ、なのだが、その……ランス殿がどういった人なのか、ええと、私に教えてほし……いや教えていただけると、ありがたい、か、かもしれない」
なぜか急にどもりだす謙信だった。
よく見ればその耳たぶは真っ赤に染まっている。
「(……?)」
謙信の様子を見て、さすがに疑問を覚える香。が、軍神様のことだから何か崇高な理由があるかもしれないと思い、口には出さない。
「うーん……ちょっと待ってください」
謙信の表情が真剣そのものだったので、香もまた真剣に考えてみることにした。
ランスの人となりを教える。それはものすごい難事のように思える。いや、本当に率直なランスの印象を伝えるだけなら簡単だろう。しかし『好色エロ変態大王』などと、香の立場上言うわけにはいかない。
だいいちそんな男を影武者にしている兄の面子が立たない。
「(うー)」
考えた末、香はランスに関してもっとも無難だと思える情報を、謙信に教えることにした。
「ランスさんは、貝殻が好きです。とても」
「……貝? 貝とは、あさりとか、はまぐりのあれ、か?」
「はい、そうです。珍しくて欠けがなくて色艶がよい、そんな貝殻が好きです。特に模様が綺麗なのをプレゼントされたりしたら、泣いて喜んじゃいますね、きっと」
それは香の好みのままだったりする。が、そのままランスにも当てはまることだろうと香は考えていたし、実際正しかった。
謙信は香の話を聞くと、手を口に当ててしばらく考え込む。
が、やがてうん、うん、と確認するように頷いた。
そして香の手をぎゅっと握り締めた。
「へっ!?」
「ありがとう。とても役に立った」
「あ、そ、そうですか? どういたしまして」
返礼してはみたものの、意味がさっぱりわからない。
そもそもこの問答はわからないことだらけだ。なんで軍神様がランスさんのことを聞いてくるのか。
頭の上にクエスチョンマークを浮かべた香と、真剣な表情で何事か考え込んでいる謙信。二人の間に沈黙の時が訪れる。
と、その時。
「謙信様。……お話中でしたか」
直江愛が、手に大きな包みを持って庭に足を踏み入れてきた。
それは彼女達の習慣だった。謙信の訓練が終わった時を見計らって、愛はいつも朝ごはんを持ってくるのだった。
「愛」
「どうかしました?」
謙信は振り返ると、親友に向かってさわやかに言い放った。
「ちょっと、貝を探しに行ってくる」
風呂に入ってくる、とでも言うかのようになんでもない口調だ。
愛は呆気に取られたように口を開けた。
貝? それはこの武田の地のことか、何か高尚で抽象的なあれなのか、いやこの子がそんなこと言うわけないから単にご飯のおかずにしたいだけか――最後が一番可能性が高そうだ。
などと愛が考えているうちにも、謙信は庭の出口へと突き進んでしまっている。
「あ、ちょっまっ!」
中庭を突き進む謙信と、それを慌てて追いかける愛。
すぐに二人の姿は見えなくなってしまった。
「……なんだか」
香の目には、その二人の姿がランスとシィルに重ねられて見えた。
愛はともかく、謙信に対してとてつもない失礼な気がしたが、思ってしまったものは仕方がない。香は心の中で謙信と愛に謝ってから、散歩を続けることにした。
貝の地下牢。暗く重苦しい雰囲気をかもし出す頑丈な鉄の棒に囲まれた部屋、つまり牢が、いくつも並んでいた。
そのうちの一つに、早雲がいた。
「がははははは、めがね君、居心地はどうだ」
「……」
鉄格子の向こうの畳の上に、早雲は座っていた。
ランスの言葉を聞くと、ゆっくりと目を開ける。
ぎろり、と男を横目で見た。
「そろそろここを出たくなったろう」
「君は」
「んー」
ランスはほんの少しだけ考えてから名乗った。
「武田信玄様だ」
「嘘だな」
早雲が即座に断定する。鋭い視線をランスに向けている。
「俺は、武田信玄に一度会ったことがある。君はまったくの別人だ」
「ふん」
ランスは否定しない。もともと隠す気もないのだ。
ためしに言ってみただけだった。
「ま、いい。今日は聞くことがあって来てやったんだ。あの、えーと何てったかな」
『南条蘭。ありゃいったいなんじゃ? 魔人? ぽい気が?』
「俺様の台詞を取るな。あといきなり話し出すな」
喋り出すカオスを見て、早雲が驚いた風な様子を見せた。
「その喋る剣は」
『呼んだ?』
「……まさか。伝説の魔剣カオスか」
「なに?」
ランスは驚いた。今までこの剣の正体を初見で看破したものはいなかった。伝説に割と詳しいはずのガンジーですら、カオスについては存在を知っていただけで、外見や性質までは全く把握していなかったのだ。
実際のところ、早雲ですら最初からカオスの存在を知っていたわけではない。
蘭に異変があってから、魔人について膨大な文献を調べていくうちに、聖刀の対となるインテリジェンスソードが存在することを知ったのだった。
そうとは知らぬランスが、カオスに向かって言った。
「JAPANじゃ有名なのか、お前?」
『当然。儂、伝説の魔剣ですよ?』
軽口を叩き合うランスとカオスを見て、早雲はある期待を抱いていた。
伝説の向こうに消えていたと思っていた魔剣が、今人類のもとにある。それはJAPANの未来にとって、大きな希望と成り得るように思えた。
だが、と早雲は思う。目の前の魔剣の剣士は、確かに強くはあった。しかし伝説の勇者とは似ても似つかない。確認しなければならなかった。
「君達の質問に答える前に、一つ、こちらから聞きたいことがある」
「なんだ? 特別大サービスで答えてやらんこともない」
「君の目的は何だ」
「女だ」
即答だった。即答で変な答えが返ってきた。
早雲の目が点になった。
「JAPANの美女はみな俺様のものだ。世界の美女も俺のもの。魔人だろーが国だろーが、邪魔なら殺す。まあかわいこちゃんの魔人なら別だがな、がははは」
無意味に馬鹿笑いをするランスを見て、早雲は呆然としていた。一瞬、自分がからかわれているのではないかと思う。
が、馬鹿笑いするランスの様子を見て、本気であることを悟ると、なぜか自分にも笑いがこみ上げてきた。
「……すごいな、君は」
「うむ、俺様は常に凄い」
「本気でそんなことだけを考えて、信玄の影武者をやっているのか?」
「そんなこととはなんだ。男として一番重要なことだろうが」
なぜか胸を張るランスであった。
早雲は陰陽師の機関の長にして、JAPAN屈指の大国の国主である。職業柄、人を見る目はあるつもりだった。その早雲の耳には、ランスの言葉には嘘が含まれているようには聞こえない。
英雄色を好むというが、好色しかないというのは、さすがの早雲も聞いたことがなかった。
「(――しかし)」
早雲は考える。まず、彼は紛れもなき有数の剣士である。
そして、その目的は決して邪悪なものではない。確かに人間の本能に忠実で下心丸出しな男だが、逆に言えばどこまでも人間らしい人間であると言える。
であれば、話さぬわけにはいかない。JAPANの未来のため、そして恋人のために早雲は、ランスを協力者としなければならないのだ。
「……蘭の身体には、使徒が宿っている」
早雲ははっきりとした口調で喋り出した。
かつてJAPANを恐怖と混沌の渦に陥れた魔人と、そしてその使徒達の話を。
「かつて魔人ザビエルはJAPANの地で、聖刀により肉体を八つに分割され、ある瓢箪に封じられた。その瓢箪は現在では全国に散らばっている」
「なんでひと思いに殺さんのだ」
「わからん。理由は当時の大僧正に聞くしかないだろう」
「瓢箪とやらはどこに?」
「当時大国であった、八つの国の国主が預かっている。近い国でいえば、上杉家に北条家、そしてこの武田家だ」
『あー、そのせいか』
唐突にカオスが喋った。早雲は興味深そうに、ランスはめんどくさそうに、カオスの柄に目をやる。
「どーした」
『いやなんか、この城に来たときから、ヘンな感じがしとった』
カオスは柄の目をあさっての方向に向けた。
なにかをジェスチャーで表現しようとしているようだが、剣の柄がうごめくだけなので、ランスと早雲には意味がさっぱりわからなかった。
『なんかこー、これ。切れっ端? てゆーか塵? みたいなー?』
「どこの女子高生だ。わけがわからん」
『ぶっちゃけ、魔人? ぽい雰囲気が、まんぜんと』
「……興味深い話だ」
「馬鹿剣の話だから、本気にするな。それより今は蘭ちゃんだ」
「ああ」
ザビエルと同様、その四体の使徒も天志教の協力のもと倒され、封じられた。外法に近い知識をいずこかから仕入れた四人の強大な陰陽師。かれらがその体内に魔人の使徒を閉じ込めたのだ。
魔の力を身に宿した陰陽師たちは、必要に応じて魔のものを使役し、比類なき力を手にした。そのうちの一人が、陰陽の名門・南条家の祖となった。
「朱雀の力は絶大だ。人間には手に負えない。俺の知る限り、最上位の鬼ですら対抗できるかどうかというところだろう」
『まあ使徒ぢゃからなー』
「だが、そんな巨大な力が、人間の身体に収めきれるわけがない。蘭は朱雀を召還するたび、その体を使徒に侵食されていった」
「侵食?」
「蘭は今、危険な状態にある。朱雀が蘭の身体を完全に掌握したとき」
早雲はぎゅっと拳を握り締めると、ランスの目を見た。
「蘭の身体は、朱雀に飲み込まれ、崩壊するだろう」
『うわ。えぐいな』
「それを俺は防ぎたい。ランス。そのために、君に協力してほしいことがある」
「あん?」
「魔人を探して欲しい」
ランスは目を剥いた。同時にカオスも目をぎらつかせた。
『魔人!? いるのかっ!?』
「うるさい。いや、というかお前、いまさっき封印されたとか言ってたじゃないか」
ランスにしてはもっともな話だ。
しかし早雲は首を横に振ると、真剣なまなざしでランスを見た。
「文献によると、使徒の生は魔人の生命に連動している」
「で?」
「蘭の中で朱雀が活性化したのは、つい最近のことだ。つまり、どこかで魔人が復活した可能性がある」
「そんな簡単に復活するもんかー?」
「天志教が監視を続けてはいるが、瓢箪は全国に散らばっている。まだ可能性の話ではあるが、既に兆候は出ている」
ランスはぼりぼりと頭をかいた。
そして感想を抱く。めんどくさそうだ。
『よし相棒! それいくぞ、やれいくぞ』
カオスは対照的にやる気満々で目を血走らせているが。
「あー、どっかで見かけたらついでに殺しとくか」
『やる気が感ぢられん!』
「でもなー」
雲をつかむような話である。美少女を助けるためと思えば、魔人の一人や二人を殺す程度はべつにいいが、いるかどうかもわからないものを探せというのは無理がある。
ランスの様子を見て、早雲は付け加えるように言った。
「最悪の場合、その剣だけ残してくれればいい。そうすれば、後は俺が何とかする」
『むほ』
「たわけ。俺様は無敵だ」
ランスは不満げに言うと、くるりと回って早雲に背を向けた。
「まあ話はわかった。蘭ちゃんのことは俺に任せて、しばらく永遠に閉じこもってろ。がははははは」
「……。まあ、期待はしよう。……それと、ランス」
話が済み、座敷牢を出ようとしたランスを早雲が呼び止める。
ランスが何気なしに振り返ると、今まででもっともこわばった表情をしていた。
「注意しろ。何か嫌な予感がする」
「?」
「魔人の気配と。さっき、その剣が言っていたな」
「言ってたか?」
『言った。たぶん』
「……。ともかく、それがもし事実だとすれば……この地で何らかの異変が起こっているのかもしれない」
「魔人がいると?」
『それはないぢゃろ。だったら儂、一発でピンときますよ?』
「魔人を封じた瓢箪は特製だ。そう簡単に、気配が漏れるようなことは無いと思うが……用心しろ」
「用心しろ、だけじゃさっぱりわからんわい」
「俺も、無理があるとは思うのだが……とにかく、頼む」
ランスは早雲の言に適当に頷くと、その場を後にした。
と、階段を上ろうとしたとき、入れ違いに下ろうとする男がいた。
真田透琳である。
「そちらの話はお済みですか」
「とっくに済んでる。あとは勝手にやれ」
「承知」
ランスと入れ替わりに、透琳はゆっくりと早雲の牢に向かった。信玄の真の代行として、早雲の処遇と、これからの両家に関してを話し合うためだった。
そんなものに全く興味のないランスは、抜き身のカオスを右手に下げたまま、地下牢を後にした。
《 》
return to index
感想・連絡・苦情その他ありましたら掲示板または下記フォームにお寄せください。
執筆意欲になります。あと作者が泣いて喜びます。返信不要の場合、末尾に『/返信不要』とお付けください。